第26話
頭を抱えながら後ずさりをした純子は、そのまま教室から飛び出していく。
「純子!」
未来がその後をおいかける。
しばらく二人分の足音が廊下に響いていたけれど、それが急に途絶えた。
そして「いやああ!!」という未来の絶叫。
私はグッと奥歯を噛み締めて自分のテスト用紙を確認した。
そこには67点という点数がつけられていたのだった。
合宿参加者
山本歩 山口香(死亡) 村上純子(死亡) 橋本未来 古田充 小高正志 安田潤(死亡) 東花(死亡) 町田彩(死亡) 上野修
担任教師
西牧高之(死亡)
残り5名
原因
未来が戻ってきたとき、その顔は疲れ果てていた。
重たい体を投げ出すようにして椅子に座り、そのままうなだれる。
「今日の命令はこれで終わったな」
正志の呟きに未来が顔を上げた。
「なにそれ」
力のない声に被弾の色が隠されている。
「なんだよ。今日はもう終わっただろ。命令は1日1回だけだ」
正志はなにも間違えたことは言っていない。
けれどそれは親友を失ったばかりの未来の逆鱗に触れた。
「純子が消えたんだよ!? なのになんでそんな普通にしてられんの!?」
「消えたのは仕方ねぇだろ? 命令の通りにやった結果だ」
「仕方ない!? 人がどんどん消えていくのが仕方ないって言うの!?」
未来は絶叫して頭を抱える。
「こんなのおかしい! なんでこんなことになってんの!?」
その叫びに私は頭を殴られたようだった。
今まで自分たちがここから助かることばかりを考えて、肝心な部分が見えていなかった。
「そうだよ未来。なんでこんなことになったのか。それを突き止めれば解決するかもしれないんだよ!」
こうなってしまったにはきっとなにかキッカケがあったはずだ。
「原因を探るってことか」
修が真剣な表情でこちらへ向く。
私は何度も頷いた。
「こうなった原因? そんなもんあるのかよ」
バカにした口調で言ったのは充だ。
みんな、自分たちが理不尽にこんな命令ゲームに巻き込まれたと思っている。
でも違う。
私は一番大切なことを忘れていた……。
「あるよ。原因は」
私は低い声で断言したのだった。
☆☆☆
その原因は1階の最奥にある部屋だった。
その部屋には入ってはいけないと先生は忠告していた。
けれど私達はそれを無視して、中に入ったんだ。
あの部屋に入ったときに内側からはられていた御札が破れたことを思い出す。
そして私だけが聞いたうめき声も。
思えば、部屋に入った次の日から異変が起こり始めていたんだ。
「あの部屋に入ったのか?」
修が目を丸くして私達を見つめた。
私は小さく頷く。
「ここに来て最初の夜。私は未来に誘われて参加した」
ずっとうつむいていた未来が微かに震える。
「そこには充も、正志も、純子もいた」
残っているメンバーで参加していなかったのは、修だけだ。
「もしそれが原因だとすれば、他のみんなは巻き込まれたってことか」
修の呟くような声に胸が痛む。
どんどん消えていってしまった生徒たちは、何の関係もなかったんだ。
これは、私達の問題だった。
「部屋に入ってみようっていい出したのは充だよ」
未来が顔をあげて言う。
その顔は青ざめていて、一気に老け込んだように見える。
「はぁ? お前らだってすぐに乗り気になっただろうが!」
責任を取らされると思ったのか、充の声が険しくなる。
「でも発案者はお前だった」
正志までが充を被弾し、バッドの先を向けた。
「なんだと!? 俺1人の責任にする気か!?」
親友だと思っていた正志にまで責められて充の顔は真っ赤に染まる。
「あんた学校でも面倒だったじゃん。自分の思い通りにならないとすぐに怒鳴ってさ! だから私達、仕方なくあんたに付き合ってあげたんじゃん!」
「なんだと!? お前は歩のことまで呼んで俺よりも楽しんでただろ!」
「元はと言えば充があんなこと考えなきゃよかったんじゃん!」
3人の怒号が教室に響き続ける。
その声は徐々に大きなり、ヒートアップしていく。
「おい、やめろよ」
修が止めに入るけれど、その声は誰にも聞こえていなかった。
3人は互いに責任をなすりつけ合い、自分は悪くないと主張している。
そんなことしても、意味ないのに。
起きてしまった出来事は変えられない。
変えなきゃいけないのは、これから先にある未来の方だ。
私はこれ以上犠牲者を出したくなくて、原因を探ろうと提案したんだ。
それなのに、どうしてこんなことになるの……。
みんなの心がバラバラに離れていくようで涙が滲んだ。
壁に背中をつけて座り込むと、隣に修がやってきた。
「大丈夫?」
「うん……」
頷いて答えるけど、その声も震えてしまった。
これじゃ解決の糸口を探すことなんて到底不可能だ。
3人の怒鳴り合いはまだ続いていて、時折バッドで床を叩く激しい音も混ざり始める。
暴力に発展してしまいそうな勢いだ。
「入っちゃいけない部屋って、一番奥の部屋だったよね?」
「うん。そうだよ」
私はどうにか頷く。
修はこんな時でも冷静に判断しようとしてくれている。
私は少しでも力になりたい。
「そこでなにかあった?」
その質問に御札のこと、何者かのうめき声が聞こえてきたことを説明しようとしたとき、ガタンッと大きな音が響いて顔を向けた。
充か正志のどちらかが机を倒したのかと思ったが、ホワイトボードが横倒しになった音だった。
私と修は目を見交わしてホワイトボードに近づく。
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