第24話
入学して一週間目。
1年生は全員がなにかしらの委員会に入ることになっている。
今日はそれを決める日だった。
「気が重いよねぇ」
委員会といえば放課後集まって会議をしたり、学校内の生活を改善するために活動したりと、なにかと忙しそうで、私はあまり好きではなかった。
同じように放課後を過ごすのであれば自分で決めた部活動をシている方がずっといいと思っているタイプだ。
だけど香はそんな私を見てまばたきを繰り返した。
「どうして?」
首を傾げて不思議そうに聞いてくる。
「だって、面倒くさそうじゃない?」
「そうかな? 私、歩と一緒に図書委員ができたらいいなって思ってたんだけど」
まるで私と一緒に図書委員をすることが当然とでもいうように、なんのためらいもなくそういった香。
私は驚いて香を見つめた。
「そっか。一緒にやればいいんだ」
今までそんなこと少しも考えていなかった私は驚いてしまって、少し声が大きくなった。
「そうだよ。本は歩も好きでしょう?」
私はうんうんと何度も頷く。
委員会と聞いただけで面倒なことだと思いこんでいた私に、香は楽しい活動もあるのだと教えてくれたんだ。
それから私達は予定通り一緒に図書委員に立候補した。
幸い他に立候補する生徒はいなくて、すぐに決定したのだ。
それから1年間、香とふたりでの委員会活動は本当に楽しかった。
学校の図書室に置くための新刊をふたりで選んだり、つい読書に没頭してしまって先生から怒られたり。
こんな日がきっとずっと続いていく。
私と香の関係はなにもかわらない。
そう思っていたのに……。
急に夢の中の世界から色が消えた。
カラフルに彩られた世界が一変して白黒に変化する。
それと同時に周囲の気温が急激に下がってきて、白い息が吐き出された。
一体どうしたんだろう。
不安になって隣に立つ香の手を握りしめる。
その手は信じられないほどに冷たくて私は目を見開いた。
香には表情がなく、呆然として前を向いている。
「香?」
話しかけても返事はなく、私の方をむこうともしない。
嫌な予感が体に駆け巡ったそのとき、隣に立っていたはずの香が忽然と姿を消していたのだ。
音もなく、まるで最初からそこにいなかったみたいに……。
☆☆☆
ハッと息を飲んで飛び起きた。
心臓がバクバクと早鐘を打っていて、気がつけな頬に涙が流れている。
窓の外からは朝日が差し込んでいて、次の日がやってきたことを知らせていた。
「香……」
私は布団の上で膝を抱えて呟いた。
昨日、香はいなくなった。
『誰かを自殺させる日』という命令を見て、自ら飛び降りてしまった。
思い出すと胸の奥がズシンッと重たくなって、気持ち悪さを感じる。
香がもういないなんて、信じられないことだった。
今日はもうなにもしたくない。
なにも食べたくないし、誰にも会いたくない。
けれど部屋に引きこもっているわけにもいかなかった。
みんなで一緒にいなければ、次の命令が出たときにターゲットにされやすくなってしまうから。
私は重たい体で立ち上がり、どうにか部屋の外へ出たのだった。
☆☆☆
廊下を歩いていても誰の姿も、話し声もしなかった。
起きたときに時間を確認するのを忘れてしまったし、少し寝すぎてしまったのかも知れない。
早足に階段を降りて教室へ向かう。
教室の戸を音を立てながら開いたとき、そこに異様な空間が広がっていることに気がついた。
思っていたとおり私は少し寝すぎてしまったようで、他の全員がすでに集まってきていた。
純子に未来、そして充と正志と修の5人がいる。
けれど教室内の空気は張り詰めていて、呼吸をするだけでも空気が壊れてしまいそうだった。
女子ふたりは今にも泣き出してしまいそうな顔をしていて、正志の手にはバッドが握りしめられている。
充が犯人探しのときに用意したものだとすぐにわかった。
だけどそのバッドは純子と未来のふたりへ向けられているのだ。
「お願い……助けて」
未来のか弱い声に我に返る。
「なにしてるの!?」
咄嗟に駆け寄ろうとした私を止めたのは一番近くにいた修だった。
修は青ざめた顔で私の腕を掴んだ。
「これはどういうことなの?」
どうして男子が女子を脅すようなことをしているのか、頭が全く追いついていかない。
「今日の命令が出たんだ」
修に言われて私はホワイトボードへ視線を向けた。
そこには『3人で点数を争う日』と書かれている。
「3人で……?」
今までの命令では人数まで指定はされていなかったけれど、今回は人数が書かれていたみたいだ。
それを見た瞬間背筋が凍りつく。
今、男子も女子も3人ずつになっている。
けれど私が起きてくるのが遅れたから、女子2人の分が悪くなってしまったんじゃないだろうか?
間接的にこの状況を作り出してしまったのは自分だと感じて、その場から動けなくなてしまった。
「ごめん。止めたんだけど……」
修が申し訳無さそうに言う。
「ううん。バッドを持ってるんだもん。仕方ないよ」
素手で戦おうとしても無理に決まってる。
私はゴクリと唾を飲み込んで正志と充を交互に見つめた。
ふたりはすでに覚悟を決めているようで、女子になにかをさせようとしている。
「点数を争うって、なんのこと?」
私はふたりを刺激しないように静かな声色で質問した。
ここで逃げ出しても、どうせ逃げ道はない。
捕まって、下手をすればターゲットにされて終わるだけだ。
「テストを用意した」
正志は短くそう言うと、視線で机の上を差した。
確認してみると先生が用意していたらしい、数学のテストが置かれている。
それを見た私は小さくうめき声を上げる。
よりによって数学のテストで点数を競うだなんて……。
数学は私が最も苦手とする科目だ。
これで純子や未来と張り合うなんて、できるだろうか?
不安で指先が落ち着きなく動く。
せめてふたりの平均点数でも知っていればまだ自信がついたかもしれない。
だけど、普段は香と一緒に行動している私にとって、ふたりの点数なんて知るタイミングはなかった。
「嫌だ……私やりたくない」
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