第3話
「そうだね……」
恐いものは得意じゃない私は中途半端位に頷く。
廊下は薄暗く、夜になってから山の気温はグッと下がって肌寒さも感じる。
8月でも山の中の施設はこんなにも気温が下がるものなのかと、おどろいていた。
長袖のパジャマを準備していたことを自分で関心しつつ、気味の悪い廊下を進む。
昼間見れば別にどうってことのない光景でも、夜になると雰囲気は一変する。
「ここだな」
しばらく歩いてたどり着いたのは先生が説明していた1番奥の部屋だった。
見た所他の教室となにも変わりはなさそうだ。
灰色のドアは沈黙し、銀色のドアノブがあライトに照らし出されている。
一瞬このドアの奥から化け物が飛び出してくるのではないかという妄想にかられて身構える。
えれどドアは沈黙を続けるばかりでなんの変化もなかった。
「震えてるじゃん。怖いんでしょう?」
いつの間にか微かに体が震えていたようで、純子がつついてくる。
「べ、別に怖くなんか……」
つい、強がってしまって、しまったと顔をしかめる。
ここで怖いから部屋に戻りたいと言えば、未来は納得してくれたかもしれないのに。
でももう遅い。
強がった私を見て純子はおかしそうに笑っている。
「カギを開けるぞ」
そう言ったのは充だった。
充の右手にはいつの間にかカギが握られている。
「そのカギ、どうしたの?」
未来が不思議そうに尋ねる。
「食堂に集合するまえに事務室から盗んできたんだ」
充は自慢げに説明する。
「事務室は空いてたの?」
未来が更に質問を重ねると「施設に来たとき、廊下側の窓のカギを開けておいたんだよ。そこから入った」と、説明した。
つまり、先生の説明を聞いてすぐに今夜の計画を思いついたということだ。
用意周到な充にあきれてしまう。
その頭の回転を勉強に使えばいいのに。
内心でそう思いながら、充がドアの鍵穴にカギを差し込むのを見つめる。
カギはカチャッと小さく音を立てて簡単に開いた。
もっと苦戦するかと思っていたので拍子抜けしてしまう。
生徒に本当に入られたくない部屋なら、もう少し頑丈にしておけばいいのに。
「開くぞ」
充が緊張した声で言う。
ドアがギィっと微かに音を立てながら外側へと開いていく。
そのとき、ベリッと紙が敗れるような音を聞いた。
「今の音なんだ?」
正志が首をかしげるけれど、小さな音は他の子たちには聞こえなかったようで、誰も返事はしなかった。
ドアが半分ほど開いたところで充がライトで室内を照らした。
そこは6畳の和室の部屋になっていて、何年も窓が閉められたままだったのか、すごく埃っぽい。
ライトの光が宙を舞うホコリを輝かせている。
意外に感じたのは部屋の中はものが少なくてスッキリしていたことだ。
もっと書類が山積みにされているのかと思っていた。
部屋の奥、窓辺にデスクと椅子があるだけで、他にはなにもない。
不思議に思って部屋に一歩足を踏み入れたとき、足の裏で何かを踏んだ感触があった。
カサッと乾いた音がして、充が足元を照らす。
そこに落ちていたのは御札だ。
白い紙は変色して黄色くなり、筆で書かれた文字はなにを書いていたのか読み取ることができない。
かなり古いものだということだけがわかる。
「ちょっとこれやばいんじゃない?」
後ろにいた未来が楽しげな声を上げる。
入ってはいけない部屋で御札を見つけたことで、少し興奮しているみたいだ。
「これ、入ったときに破れたんだな」
正広が御札を手に取ってそう言った。
よく見ると半分に破れているのがわかった。
残る半分はドアの内側に張り付いたままだ。
「入るなっていうのは、そういうことだったんだ」
純子が部屋の中を見回して呟く。
てっきり重要書類や生徒たちの成績表などが保管されているのだと思ったけれど、大違いだ。
途端に背筋に氷を当てられたような寒気を感じて強く身震いをする。
「ねぇ、もう出ようよ」
部屋の中には大したものはなかったし、見るものもない。
一刻も早くこの部屋から出たかった。
しかし他の4人は部屋の奥へと入っていってしまう。
「この部屋、窓がないんだな」
充が月明かりの入らない6畳間を不思議そうに眺めている。
窓のない部屋は珍しいかもしれないけれど、そのせいで余計に空気が淀んで蓄積している。
あまり長くいたくはない場所だ。
「この机には何が入ってるんだろう?」
未来が好奇心をむき出しにきたキラキラと輝く瞳で机に近づいていく。
「もういいじゃん。なにもなかったんだってば」
なんだか嫌な予感がして未来の腕を掴んで動きを止める。
未来は怪訝そうな瞳をこちらへ向けた。
「ね、もう出よう?」
「そんなに出たいなら1人で出なよ」
「そんな……」
本当はひとりでも廊下へ逃げ出したかったけれど、私はライトを持っていない。
薄暗くて気味の悪い廊下でひとり待つのも嫌だった。
そうこうしている間に未来は私の腕を振り払って机に近づいていく。
この部屋の中で調べられそうな場所と言えば、机と襖くらいなものだ。
そこを確認すれば満足してくれるだろう。
もう少しの時間我慢するだけだ。
自分にそう言い聞かせた、そのときだった。
あぁぁ……うぅう……。
低い唸り声か、泣き声に似た声が聞こえてきて私は悲鳴を上げてその場に飛び上がっていた。
「ちょっと、なに!?」
机の引き出しを開けようとしていた未来が驚いて振り返る。
「い、いま、声が聞こえた!」
ガタガタと全身を震わせる私に他の4人は目を見交わせている。
「なにも聞こえなかったぞ?」
「嘘! 絶対に聞こえた!」
充の言葉に私は強く左右に首をふる。
今のは絶対に聞き間違いなんかじゃない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます