第18話 向い合わせの車椅子

母は僕と似たような障害の子どもを持つ母の会に入っていて、母親同士で交流を持っている。


同じような悩みを持つ親同士で繋がることはすごく心の支えになっているようで、母同士でよく連絡を取り合っていたし、お互いの家に遊びに行くこともあった。


今日はそんなお仲間の一人の自宅に遊びに来ている。その方とは、これまでも母同士の交流はあったみたいだけど、僕がその当事者の方と会うのは初めてだった。


一時間ぐらい車を走らせて、その子の家に到着したのはお昼頃だった。ランチを用意してくれているみたいだった。  


その子の家はとても大きくて、玄関も広かった。一階は全てバリアフリーだそうで、車椅子での移動がとてもスムーズで快適だった。


僕はペースト状やギリギリ刻み食なら少量食べることができるぐらい。到着してから、持参していた食事を手早く食べさせてもらった。あとは母達が楽しんでくれたらいいね、と僕は割り切ってその場で時間をやり過ごすことにした。


母同士は色々ご馳走を食べながら楽しそうにお喋りに夢中になっている。母が楽しそうに笑っていると僕も嬉しかった。


でも、一つ何とかしてほしいことがあった。


車椅子に座った僕とその子は、なぜか対面に向かわされて座っていた。しかも、位置も結構近くだ。

相手の女の子は、僕と同い年ぐらいだろうか。 


向かい合わせは気まずいなーと思うのは僕だけだろうか。せめて少し斜めに座らせてくれるとかの気遣いがあってくれると助かるんだけどな。


この子も、僕と同じ重度の全身麻痺でやっぱり喋れないのだろうか。麻痺にもその人によって程度が違うから、みんなできることもそれぞれなんだよね。


母の方を見ると、僕達のことはそっちのけでお喋りに興じていた。


うう……非常に気まずい……


眼鏡かけるようになって、必要以上にはっきり見えちゃうから余計になんか気恥ずかしいんだ。

僕は目すら合わせることが出来なくて、視線を逸らした。


僕は相変わらず無言で無表情だし。

時々、身体が勝手に動いて変な動きもしちゃってるし。

ヤバいよ、この状況。

普通だったら絶対笑っちゃうやつだよ。


しばらくの間、僕は自分の脳内で爆笑していた。 表現できなくて、とても残念だな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る