第18話再会

 店の奥から出てきたのは、めぐみが探していた結城だった。

「結城お姉ちゃんだよね、探したんだから。」

「もしかしたら、めぐみちゃん?。お母さんにそっくりの美人になって。ここにいるってことは、天の事業(株)に入れたの?。」

「うん、もう三年目。ひらめき課に入ったの。」

「おめでとう。夢がかなったね。」

「まだ夢の途中だけどね。こちらは、さっき話してた結城お姉ちゃん。あっちは、ひらめき課の課長と、幸福の女神課の友人よ。」

「楽しくやってるみたいで、よかった。」

「何年か前から結城お姉ちゃんに手紙を出しても帰ってくるし、資材課で聞いても、退職した後の事は知らないっていうし、探したんだから。」

「ごめん、ごめん。天の事業(株)の食堂で働いていた今の主人と結婚して、店を始めたんだけど、最初に借りた場所が、客層が合わなくって、新しくここを借りて引っ越したりして。全然余裕がなかったの。休日も買い出しとかしてて。」

「じゃあ、ここのお店、結城お姉ちゃんとご主人でやってるの?。」

「そう、主人が、コック長。私が、仕入れや、会計やってる。」

「すごくおいしかったよ。材料も新鮮だし。」

「めぐみちゃんの村からも、野菜を送ってもらってるのよ。いけない、お会計だったわよね。お待たせしてすみません。」

めぐみは結城の連絡先をもらい、ニコニコしながら皆と帰途についた。

「嬉しいのはわかるが、顔が崩れすぎているぞ。元に戻らなくなったらどうする?。」

久々に高杉がめぐみをからかった。

「美味しい店でしたね、また来ましょう。高杉君はどうやってこの店を知ったの?。」

「ネットで評判がよかったし、会社からも近かったので。まさか、めぐみの知り合いの店とは。驚きました。」

「願っていれば叶うって本当だね。」

そう言ってめぐみは、にっこりと笑った。

ーピカソと結婚できることを、願おう。いつか、きっと。願いが叶う。ー

めぐみは心に誓った。

白木課長が右に曲がると、めぐみの心を察したように、

「ちょっとそこの公園で話をしましょう。」

と、キララが誘い、三人で公園のベンチに座り、キララが高杉に詰問。

「ところで、めぐみとの事はどうなってるの?。婚約の解消の見込みは?。農家出身のめぐみと結婚する方法は思いついた?。」

「落ち着けよ、キララ。婚約者の麗華の事は、幼馴染だし、出来るだけ傷つけないで、婚約解消できたらと考えている。」

「そんなことムリに決まってるでしょ!。」

「実は弟のルークが麗華の事を好きなんだ。ルークには婚約破棄をしたい旨を打ち明け、協力を頼んだ。ルークは僕と同じ髪型、同じような服装で、麗華を天の事業(株)の文化祭と天の舞踏会に誘った。僕が言うのも変だが、二人はなかなかいいムードになっている気がする。」

「今度ルークに合わせて、直接会って話が聞きたい。あと、麗華さんって、西宮家のお嬢様でしょ?。」

「ああ、よく知っているな。」

「うちの会社が西宮家の使用人を全て紹介してるの。麗華様にも何回かお会いしたことがある。ちょっとお高く留まってるけど綺麗でな方よね。」

「ああ、麗華は美人だ。後、うちと西宮家は関係が深い。あと、自分の婚約解消で、両家の関係が壊れるのは困る。」

「麗華様にもそれとなく話を聞いておくわ、ちょうど来週、新人のメイドを一人西宮家に紹介する予定があるから、その時にでも。」

「キララは家業を手伝っているんだな。」

「人材派遣とか、モデルや女優の事務所をやってるから、私に合った仕事だと思う。高杉氏も貴族の仕事を手伝ってるんでしょ?。」

「領地見回りとか、経理、あと、屋敷の修理を自分でするくらいだ。」

「二人共、天の事業(株)の仕事と両立して、家業を手伝ってるなんて、凄い。全然知らなかった。」

めぐみが驚いて言った。

「毎日やってるって、訳でもないし。めぐみの24時間勤務よりは、楽だと思うけど。」

と、キララが言うと、高杉も同意した。

「本当だ。あれは人間わざじゃあなかった。」

「ピカソったら、また、そんなこと言って。」

「いちゃつくのは、私がいない時にして。ルークの連絡先を私のスマホに送っておいて。私の要件もルークに説明しておいてよ。」

「ああ、解った。他には?。」

「今はもうないわ。邪魔者は消えるから、めぐみを送ってあげて。」

キララはいつものように足早に立ち去った。

公園通りは歩道に沿って、色とりどりの花が咲き誇る花壇が、長く続いており、空にはおおきな満月が浮かんでいる。

二人は寄り添って歩き出した。

「えーと、手をつないでもいいかな?。」

「もちろん、いいよ。」

高杉がぎこちなくめぐみの手をつなぎ、

「まるで、小学生のカップルみたいだ。」

と、言って、二人は思わず笑いだしてしまった。

「いいんじゃない?。小学生みたいでも。私たちらしくて。」

高杉の大きな手に包まれ、ドキドキしながらも、なぜか安心してめぐみの笑顔が止まらない。

「無事に婚約解消できたら、プロポーズするよ。」

「うん、待ってる。」

二人はファウストのように

「時間よとまれ。」

と、言いたかった。

だが、メフィストフェレスはいなかったから、ゆっくりゆっくりと遠回りして帰った。

満月の魔法だろうか、夢の世界を歩いているように、どこもかしこも美しかった。


 次の日キララはルークと、喫茶店で待ち合わせをした。

「本題に入るけど、麗華様とはどうなの?。進捗は?。」

「君って本当に、兄の言ったとおりの人だね。天の事業(株)の文化祭と天の舞踏会に一緒に行ったことで、距離が縮まった気がするよ。ただ、僕がどんなに好きだと言っても、答えをもらえてはいないけどね。」

「麗華様の事、本気で好きなら、自分の兄と婚約した時、嫌だったでしょう?。」

「もちろん、ショックだったけど、兄上は優秀だし、次期当主だし、仕方がないとあきらめようとしていたんだ。それを兄上が、婚約解消したいなんていうから、殴ってやりたい衝動を抑えるのが大変だったよ。」

「殴ってやればよかったのに。なんてね。もし、ルークと麗華様が結婚したいって、それぞれの両親に言ったら、結婚してもいいっていわれるかな?。」

「どうかな?。誰か、うちより上位の人の口添えが必要かもしれない。」

「ルークは自分の兄が農家出身の人間と結婚しても、気にならない?。」

「まだ会ったことがないから、解らないが、兄上がたぶらかされていなければいいと思う。」

「じゃあ、彼女と会うべきね。めぐみは、たぶらかせるような娘じゃないのがすごくよくわかるから。脳天気で、前向きで、馬鹿正直なの。あと、ルーク。麗華さまに好きって、いつも言ってるみたいだけど?。」

「ああ、会うたびに好きだって伝えてる。」

「これからなるべく毎日会うようにして、しばらくは好きって言わないで。」

「どうして?。」

「一か月くらい好きって言わないでいて、麗華様がなぜ好きって言わないのか気になってきたころ、プロポーズしなさいよ。恋の駆け引きもメリハリ漬けないと。まあ、高杉兄のほうはそういう事出来なそうだけど。」

「兄上は見た目より行動が地味なんです。ダンスとか絶対人前でできないし。僕のほうが目立つことが平気かな。」

「じゃあ、次期当主もルークが引き受けたほうがいいんじゃないの?。」

「とんでもない、兄上は優秀で、僕はいつも兄上に勝てないんです。」

「当主の周りが優秀なら問題ないでしょ。派手な行動が出来るほうが、当主にむいてると思うけど。高杉兄は当主になってもお屋敷の修繕を自分でやりそう。」

それを聞いて、ルークが大笑いした。

「ハハハ、流石、兄上の同僚だけあって、よく解ってますね。」

「私、来週麗華様のお屋敷に伺う予定があるから、あなたへの気持ちを聞いてきてあげる。」


一週間があっという間に過ぎた。

「お世話になっております。この者が新人のメイドです。麗華様にもご挨拶差し上げたいのですが、可能でしょうか?。」

控えの間で三十分ほど待っていると、麗華が美しい金髪の光を輝かせながら現れた。

「おひさしぶり。あなたのところのメイド、教育がいきわたっていて問題ないわ。今日はどの様な御用かしら?。」

「私、天の事業(株)の幸福の女神課に勤務しております。不躾ながら、麗華様に婚約者の高杉ピカソ氏について、伺いたい旨がございます。」

「ピカソ様についてですって?。あなたとどんな関係がございますこと?。」

「高杉氏とは、友人として親しくさせていただいております。ですから、高杉氏が麗華様との婚姻に未だに踏み切れないことも、麗華様が弟君のルーク氏と天の事業(株)の文化祭や天の舞踏会に同行なさっておられることも全て承知しております。もちろん、ルーク氏の麗華様に対するお気持ちも存じております。」

「ルークの私に対する気持ち?。本当に?。先週までは毎日プロポーズまがいの言葉をかけてきたのに、今週になってから、急にそれが止まったの。どうしてかしら?。」

「ルーク氏の態度に変化ございませんか?。」

「ええ、いつも優しく、紳士的で、温かい態度に変化はありません。」

「麗華様、失礼を承知で申し上げますが、先週までルーク氏がプロポーズまがいの言葉を発した時、どのようなリアクションをなさいましたか?。」

「本気なのか判断しかねて、冗談を言われた時のように反応したと思いますけど。」

「そうですか。」

キララの考えているような仕草に、麗華は心配になって思わず

「何か、わたくし、ルークを傷つけるようなことをしてしまったのかしら?。」

「いえ、そのようなことは。ただ、本気でプロポーズするのが怖くなってしまった可能性を否定できません。」

「まあ、そんなことが。わたくし、どうすれば良いのでしょう?。」

「麗華様はルーク氏の事を好いていらっしゃるのですね。」

「そうなのかしら?。最近自分でもよく解らなくなってしまったの。もちろん、ピカソ様の事はお慕いしているは、幼馴染だし。幼いころ、『君を守る』っておっしゃってくださったのがピカソ様だとずっと勘違いしていたんだけど、ルークが自分が『君を守る』って言ったって。『君を守る』って言ってくださった方に恋をしたはずだったのに。」

「ルーク氏は麗華様と結婚したいと話していました。ピカソ氏は麗華様の事は幼馴染で、大切だから、傷つけたくないと言っていました。」

「ルークがわたくしと、結婚したいというのは本心だと思う?。」

「もちろんです。麗華様はルーク氏の初恋の相手ですから。」

たぶん、とキララは心の中で付け足した。

世間知らずの麗華は、キララの誘導で、自分の気持ちを正直に話していた。

キララは麗華はルークのことが好きなのだと確信できたので、ピカソと麗華の婚約を破棄し、ピカソとめぐみを結婚させる計画の次のステップに進むことを決意した。

貴族の嫁になるためには、貴族の娘であるか、貴族の爵位を金で買った娘であるか、貴族の養子になるか、有名女優である必要があった。

ーめぐみは金持ちではないから、コネを使って貴族の養子にするしかないだろう。

どんな手を使えばそれが可能だろうか?。ー

キララの妄想はとまらない。



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