第17話謎解きと竜崎相談役の策略

 刑事たちが高杉に面会を求めた。

一人は若く紺色のスーツを着こなしていた、残念ながら量産店のスーツであることは一目瞭然だったが、それでもそれは新品で、着ている刑事のフレッシュな雰囲気にマッチしていた。

もう一人は、ヨレヨレのグレーのスーツを着ていた、安物の上に年期が入りすぎたそれは、スーツというよりもパジャマの風貌があり、年を取ってしわだらけになった顔を持つ刑事にはぴったりのものだった。

高杉と彼らは白い壁の会議室にこもり、しばらく話し合っていた。

刑事たちのせいで、その会議室は取調室のような趣をかもしだし、高杉を苦笑させた。

会議室を出ると、刑事たちは防犯カメラを調べ始めた。

傷害事件が起こった時間と場所を記入し、その前後に誰がどこで写ったかを記入していった。

その地味で根気がいる作業が終わると、高杉がよばれ、またなにか話し合った。

「目撃者を探すために、何人かに質問したいので、呼ばれた方は会議室に来てください。」

会議室には、二人の刑事と少し離れた場所に、高杉が待っていた。

最初に呼ばれたのは一番初めの被害者のお局だった。

彼女はまだ骨折が治っていなかったが、肋骨はガードルで絞めて、腕の骨折はギブスで固めて仕事に復帰していた。

次は二番目の被害者のコックが、その次に三番目の被害者の善悪カウント課のハゲた老人がよばれた。

次には、掃除のおばさんたちが順番に会議室に入っていった。

「ここ数週間の掃除の分担や、怪しい人物を見ていないか聞かれちゃった。」

掃除のおばちゃんの一人が、めぐみに話しかけた。

「そうなんだ、刑事さんに質問されるなんて、刑事ドラマみたいだね。」

「めぐみちゃんもそう思う?。あたしも刑事ドラマが大好きだから。ワクワクしちゃって。張り切って、すごく喋っちゃった。最後には刑事さんにもう結構ですって言われて、追い出されちゃったよ。」

めぐみは少しでも高杉の手伝いができるよう

会議室の外で待機して出て来た人物に話しかけていた。

次に呼ばれたのはガードマンの三人だった。

一人はアルバイトで夜間だけ働く青年、もう一人はベテランの老人、最後の一人は中年男性だった。

「やあ、めぐみさん、お久しぶり。おかげさまで、試験でいい結果がだせました。どうして高杉さんが刑事さんと一緒に事情聴取をしているんですか?。」

「ちょっと手伝ってるみたい。ミステリー好きだしね。」

「高杉さんは天の事業(株)の探偵みたいですね。助手はめぐみさんかな?。」

「私でも助手になれるかな?。」

ガードマンの後には総務課のメンバーが次々と事情聴取を受けた。

新人の白鳥から始まり、長谷川、中堅の数人んが呼ばれた後、総務課の課長補佐、最後に、総務課課長が入室した。

「めぐみさん、いつも彼女がお世話になってます。この事件は高杉が解決しそうですね。」

と、長谷川が声を掛けた。

「めぐみさん、僕に会いたくて待っていてくれたんだね。」

と、寄ってきた白鳥は、長谷川が

「いい加減にしろ。警察に突き出されるぞ。」

と、言いながら総務課に連れ帰ってくれた。

ひらめき課とは顔見知りの、総務課課長が出て来た時は、めぐみから声を掛けた。

「SNSなんて気になさらないで下さい。皆、総務課課長の事、信用していますから」

その後に鑑識がきてあちこち調べていったと思うと、突然三人の人物が逮捕され連行された。

白木課長は高杉を呼び出した。

もちろんキララとめぐみも一緒だ。

「これがどういうことなのか。説明してくれないか?。」

「そうですね。まずは実行犯の話しからはじめましょう。」

そして高杉の謎解きがはじまった。

まず、被害者はどうやって選ばれたのでしょう。

最初の被害者は資材課の御局でした。

かの女はラブレターで図書館に呼び出されて、本棚に結ばれたロープに足を取られて転び、その上に倒れやすいように細工されてあった本棚と本が落ちてきて、肋骨と手を骨折し、その痛みで気絶しました。

その時、素早く証拠になるロープを犯人が持ち去りました。しかし、なぜロープを持ち去る必要があったのでしょうか。犯行に慣れていない犯人は自分の持ち物であるロープを使用し、後にその危険性に気付き慌てて取り戻したのでしょう。

あと、分厚い本を移動し、本棚を倒れやすいように細工しながら細工するには最低二人の人物が必要でした。

人数が多いほど、下準備に時間がかかるほど見つかる可能性が増えるのに、なぜ彼らは誰にもみつからなかったのか。

第2の事件の謎は、犯人が冷凍庫の暗証番号をどうやって知ったのかということです。

暗証番号は数日前に変更されたばかりで、食堂の数人が知っているだけでした。

第3の事件はいかにも行き当たりばったりのようでしたが、ここでは特に誰かがトイレに入ってきて、目撃される可能性が高かったのに、犯人はなぜ犯行をおこなえたのでしょう。

さらにこの事件に共通して言えることは指紋が残されていない、つまり手袋をはめての犯行でした。

3件の事件で目撃情報がなかったのは、なぜだと思いますか?。

犯人が透明人間だったからです。

もちろん、物理的にではなく心理的にということです。

人が記憶に留めない、どこにいても怪しまれない人物。

それは、四六時中どこでも仕事をしている、掃除のおばさんと、ガードマンです。

掃除のおばさんが掃除中の看板を置けば、誰も疑わずに入って来ません。

図書館とトイレそして冷凍庫の前の廊下に掃除中の看板を置いて、誰も立ち入らせないようにしたんです。

それに、掃除のおばさんが手袋をしていても誰も不審に思いません。

もう一人いつも手袋をはめている人物がいます。

過去に両手に酷いヤケドをおって手袋をはめている、中年のガードマンです。

防犯カメラを刑事さんがチェックして、掃除のおばさんの一人と、中年のガードマンが現場周辺で写っている証拠を入手しました。

本棚に残っていた繊維から、結ばれていたロープが掃除に使われていたものと同様の物だとわかりました。

冷凍庫の暗証番号をどうして犯人が知ったのかですが、犯人は暗証番号なしで冷凍庫を開けたのです。

犯人は一瞬ブレーカを落とし、またブレーカを戻したのです。

ブレーカが落ちて、電気がとまると、電子ドアロックが解除され、扉が開くのです。

犯人はそれを利用し冷凍庫に侵入しました。

例の掃除のおばさんと中年のガードの周辺を刑事が調査したところ、二人とも休みがちで、勤務態度が悪くリストラの候補に挙がっていることが、総務課課長から証言されました。

「二人が犯人なの?。理由は?。」

めぐみの問いに

「二人は実行犯です。彼らに指示を出したのは、総務課課長代理。首になりたくなければ、障害事件をおこせと強要したのでしょう。長年にわたる課長代理止まりの不満のせいで、総務課課長を失脚させるために、今回の連続障害事件をおこしたんです。」

「それであの、総務の課長が監督不行き届きで責任問題になってるっていうSNSなんだ。」

「そうです。SNSで騒いで、総務課課長を降格させ、自分が課長になろうとしたのでしょう。」

数日後、犯人達が全て白状したと言って

刑事が高杉に会いに来た。

刑事が語った犯人の自供は高杉の推測と全て一致していた。

めぐみ達は改めて高杉の推理力に感服したのだった。


数日後、高杉は白木課長とキララとめぐみを食事に誘った。

「竜崎相談役について、何か新しく解ったことがあるの?。連続障害事件のせいで、肝心の竜崎相談役について、放ったらかしになっちゃったね。」

「ああ、相談役たちが、『代表取締役の解任』か『取締役の解任』かどちらにするかを話し合っているそうだ。ほかの相談役たちは、『代表取締役の解任』でいいのではないかとしているのに対し、竜崎相談役だけが、強硬に『取締役の解任』を主張しているらしい。」

「ちょっと待って、『取締役の解任』と『代表取締役の解任』の違いが判らないんだけど。」

キララの言葉にめぐみも大きく頷いた。

「『代表取締役の解任』は、代表から降ろすだけで、平の取締役として会社に残る。『取締役の解任』は取締役をやめさせることで、自動的に代表の地位から降ろさせ、会社から完全にさらせることが出来る。ただし、そのためには、必ず株主総会を開催しなくてはならない。株主総会を開催する手続きは複雑で、手間と時間がかかる。」

白木課長が高杉に代わって説明したが、まだキララとめぐみは首を傾げていた。

「つまり、竜崎相談役は勝又代表取締役社長を会社から追い出そうとしているという事だ。」

「勝又代表取締役社長を会社から追い出して、どうするのかな?。」

「たぶん、自分が代表取締役社長になるつもりなんだ。前の代表取締役社長が会社にいて権力を持っていたら自分の好き勝手にできないだろう?。」

「代表取締役社長になって、何をするつもりなのかな。」

「まだ、そこについては言及していないらしい。ただ、『初心に帰るべき』、だと言っているらしい。」

「初心って何?。」

「天の事業(株)が発足してのがあまりにも昔で、資料があまり残っていない。もう少し、調べてみるよ。」

「竜崎相談役から禍々しいものを感じたのは私だけど、自分が社長になりたいなんてことで、禍々しくならないよね。」

「そうだな。何か、他に陰謀があるという事か。」

「社長になって何をさせたいのかな?。」

「下界の人間たちを幸福にするのが天の事業(株)の仕事だけど、逆に不幸にするつもりかな?。戦争をさせるとか。」

「でも、戦争させても、竜崎相談役にメリットがないんじゃないかな?。」

「単に、サイコパスなだけとか?。」

「何かしっくりこない。もう少し、調べないと。」

「竜崎相談役の影に剣を突き立てる方法についてはどうなってるの?。」

「それには、いくつもの問題がある。」

高杉は計画の原案を作るための、メモを読んだ。


1.竜崎相談役に近寄るのが難しい。相談役は相談役会議の時だけに天の事業部にやってくる。竜崎相談役がどこでどうして、他の時間を過ごしているのかの情報がない。

2.天の事業部にやってきても、相談役たちのいる部屋に近づくには、セキュリティーを通らなくてはならない。

どうやって、短剣をもってセキュリティーをパスすればいいのか。

3.竜崎相談役の影を短剣で刺すには、竜崎相談役が一人でいるときを選ばなければならない。

4.竜崎相談役が一人の時、竜崎相談役に気づかれずに、短剣を影にささなければならない。万が一、短剣を影に刺しても何ごとも無かった場合のことも考えておく。

5.竜崎相談役の影を刺した後、誰にも気付かれずに、逃げ出さなければならない。

6.この件に、我々が関与していることを、誰にも気づかれてはならない。


「なんか、問題ありすぎって感じだね。」

めぐみが笑いながら言うと、皆もつられて笑った。

「竜崎相談役について、解らないことだらけなんだ。竜崎相談役いがいに、敵がいるのかも解らないし。とにかく、誰にも我々の行動を悟られないように注意するのが、一番の安全策だと思う。とりあえず、パズルを解くみたいに、一つ一つゆっくり考えてみるよ。」

という、高杉に、

「なんか高杉氏かわったよね。自然体になったかな?。問題山積みでも動じないし、大物感が出てきた。まあ、めぐみも変わったけど。」

「キララまにめぐみって呼ばれると、なんだかこそばゆい。」

「ひらめき課に入ったばかりに頃は、海底の泥にもぐって、両目を出してるヒラメってイメージにピッタリだった。ダサいグレーのスーツを着てたしね。でも、だんだん、泥から抜け出して、ビーナスみたいに綺麗になって、考え方も変わってきたよね。まあ、脳天気は相変わらずだけど。」

キララの言葉に、めぐみは

「それ、褒められてるのかな?。ビーナス以外はけなされてる気がするのは私だけ?。」

「キララ君は褒めているよ。平井君は、プライベートも仕事も充実して成長し続けている。」

白木課長の言葉にめぐみは、喜んだ。

「天の事業(株)に入ったのは、人間として成長できるようにって考えてなんです。農家は上昇志向より、忍耐力が必要ですからね。結城さんという天の事業(株)の女性にであって、仕事をしながら成長出来たらって、子供ながらに夢見たんです。課長に成長してるって言われて、本当に嬉しいです。村長にパワハラされても我慢するだけの両親をみて、私はこんな奴にパワハラされないようになりたいって、ずっと思っていたところに、結城お姉ちゃんが、村長なんか言い負かしてたから、ああなりたいと思ったのが最初なんですけど。」

「そうだったんだ。なりたい自分になったのか。今でも、自分がどうなりたいのか良く解らないんだ。めぐみが羨ましいよ。ところで、写真同好会の次の活動についても決めたいんだけど。」

高杉の言葉にキララが答えた。

「何か一つのテーマで各自写真を撮って、どこかで発表するとかいいんじゃない?。」

「食堂に貼らせてもらえるように、お願いしてみましょう。」

と、めぐみ。

いつも食堂で定食を美味しそうに食べて、

「今日の定食もすごくおいしかった。ありがとう。」

と、必ず声をかけるめぐみは食堂のおばちゃん達と仲が良かった。

「いいね、テーマは何にする?。」

「笑顔とか、動物とか、花とかどう?。」

「まずは、動物とかがいいんじゃない?。可愛いし、皆見てくれるから。」

「わかった。じゃあ、二週間後までに写真をとって提出するように。キララから皆に、連絡してくれ。」

「解った。」

話し合いが一段落したので、四人は食事に専念した。

「ここ何でも美味しいよね。はじめてきたけど。」

「特に野菜が新鮮だよ。」

「お腹いっぱいなのに、美味しすぎてやめられない。」

四人は食事に大満足だった。

「じゃあ、今日は解散。すみません、会計おねがいします。」

と言う高杉の声に答えて、

「はい、今伺います。」

と、店の奥から出てきた女性を見て

「えっ?。あなたは。」

めぐみが驚いた。

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