第10話地下道捜索決行

 空がすみ清々しい季節になったある日のこと、ついに地下道を訪れて、短剣を捜索する計画を実行する時がきた。

なんだか子どもの頃に戻ったようで、実は皆、ワクワクしながらこの時をまっていた。

約束の場所に集まったメンバーは、高杉、白木、キララ、ヒラメの四人。

高杉の荷物をみて、他のメンバーは驚きを隠せない。

黒の上下と黒い帽子は他のメンバーと変わらなかったが、黒縁の眼鏡をかけ、黒いリュックいっぱいの荷物と、腰に巻いた工具ベルトには、使い込まれた工具が使いやすそうな順番で刺しこまれていた。

「貴族というより、まるで便利屋ね。」

と、キララ。

「自分の屋敷の電気工事や、改装は、自分でやるのがモットーでね。他人を信じられないのが貴族の悲しい習性さ。」

高杉が苦笑いしながら説明する。

「でも、いまそんなもの必要?。地下室に降りて鍵穴を探して、カギを開けて剣を取り出して持ってくるだけでしょ。高杉氏が自分でそう言ったでしょう?。」

キララは納得できずに食い下がった。

「何が起こるかわからない。準備はしておかないと。さあ、出発しよう。」

高杉が促し、皆は歩き出す。

ヒラメは皆が歩き始めたので、アタフタと後を追った。

実は、高杉の姿に胸キュンしてしまい、自分でもどう対処すべき解らなかったのだ。

そういえば、白木課長が初めて眼鏡をかけてきた日にも、課長を見て、ドキッとしたんだったな。

ー私、もしかしたら眼鏡に弱いなのかもしれない。眼鏡フェチっていうのかな?。そういえば、子供の頃に好きだったアニメキャラクターは皆、眼鏡をかけていたし。それにしても、タカピーに胸キュンするなんて、一生の不覚!?。まあ、最近は口は悪いけど、いい人だとは思ってるけどー

「地下室のカギは、無事に手に入ったの?。」

キララが高杉に確認した。

「ああ、昨日展示室に見学にいって地下室のカギを頂戴して、代わりに、うちの屋敷の古いカギを置いてきた。カギなんてみんな同じに見えるからな。」

地下室は思いのほか遠かった。

長い階段を降りると、薄暗い長い廊下が続き、また長い階段を降り、長い廊下をすぎを繰り返し、やっと地下四階にやっとたどり着いた。

地下三階まではだいぶ前だろうが、掃除がされた形跡があって、比較的歩きやすかった。しかし、地下四階は蜘蛛の巣だらけで廊下にもいろんなものが散らかっていて歩きにくいことこの上ない。

「目的の地下室って地下五階よね。まだつかないの?。頭が痛いし、なんか変な気分。なにかに見られてる気がしない?。」

「キララもそう思う?。私も何かに見つめられてるみたいな気がして、怖くてしかたがない。」

そういいながらヒラメはその場所にうずくまってしまった。

かなり気分が悪そうだ。

「酸素が薄いみたい、息苦しい。うそ!、あそこ見て!、何かが動いた!。」

キララが暗がりを指さし、おびえた声を出した。

異変に慄くメンバーを見て、高杉は、リュックから何かの機械を取り出し、測定を始める。

「やっぱり。みんなここで待っててくれ、ちょっと行ってくる。なるべく15分以内で戻る。」

一人で行ったら危ないと口々に引き留めるメンバーを制し、高杉は機械を空にかざしながら、長い廊下の向こうの暗闇に消えていった。

「本当に、一人で大丈夫なのか?。」

白木課長が高杉の背中に声をかけたが、暗がりにのまれて、すでに高杉の姿は見えない。

「なんか、寒くなってこない?。そういえば、幽霊が出るとき気温が下がるっていうよね。」

ヒラメがつぶやいた。

「見て、あそこに白いものが蠢いてる!。」

キララがまた、おびえた声を出した。

そんなことを言っているうちに15分が経過した。

「15分で戻るって言ったのに、高杉氏まだかな?。」

今まで怯えて思考停止していたキララが、高杉の心配をしだした。

「なんか寒くなくなったし、頭痛も止んだ、息も苦しくなくなった。さっきのは、なんだったのかな?。」

ヒラメがつぶやくと、白木課長がそれを制して、小声で言った。

「静かに、誰か来る。隠れましょう。」

メンバーが物陰に潜み息を殺していると、現れたのは高杉だった。

「よかった、タカピー無事で。」

ヒラメはやっと緊張を解いた。

高杉の姿を見て、こんなにも嬉しいとは思わなかった。

「お待たせ、ちょっと手間取ってっしまった。みんな、気分は良くなったかい?。」

「一体どういうことだ?。僕たちに何が起こって、高杉君はどうやってそれを止めたんだ。まさか、一人で幽霊退治をした訳でもあるまい。」

白木課長が首をひねりながら尋ねた。

「幽霊の正体見たり、低周波というやつですよ。」

高杉の答えに、益々訳が分からないメンバーたち。

「僕らにもわかるように説明して欲しいな。」

高杉は順を追って説明した。

「資材課で、前もって地下道について聞き込みをしたんだ。そうしたら、ここの地下三階までは片付けが終わったのに、地下四階に行くと、皆気分が悪くなって幻聴も起こり、片付けられないという話を聞いた。それで、周波測定器と工具を用意したんだ。」

高杉はぽかんとしている皆の顔をみて、さらに詳しく説明を続ける。

「人間の耳では聞こえない19Hzの低周波が原因で、気分が悪くなったり幻覚が見えることがある。この廊下の一番奥に古くてさびた大きな換気扇があった。それがゆっくりと回転して低周波をだしてました。工具で解体して換気扇の羽を外すのに10分以上かかりました。」

「そんな低周波の事なんてよく知ってたわね?。」

キララが目を丸くした。

高杉は知っていて当然だというような顔をしていたけれど、それをあえて言葉にはしなかった。

「高杉君、よくやってくれた。とにかく進もう。」

白木課長が促して、皆は再び進み始めた。

やはり地下五階は蜘蛛の巣だらけで、廊下にもいろんなものが散らかっていた。

そんな歩きにくい状態でも、ここが目的地だと思うと、皆テンションが上がる。

地下五階では廊下の両側に、それぞれ12部屋が並んでいた。

一部屋ずつ全員で入って、例のカギに合う鍵穴を探し始めた。

一部屋目にもない、二部屋目にもない、ない、ない、ない。

「もう、全部屋探し終えたのに、鍵穴が見つからない。一体何処にあるの?。」

と、キララが悔しがる。

「もう一度最初の部屋に戻って一列に並んで、壁や床、天井をたたいてみよう。」

白木課長の提案の通りにやってみる。

まずは右側の一番目の部屋から始めた。

意外と時間がかかるし、皆疲れてきた。

本当に隠された鍵穴なんてあるのだろうかと、不安になるが、それを誰も口に出せない。

口に出したらそれが現実になってしまいそうで、怖かったのだ。

かなりの時間をかけて右側の部屋を全て捜索したが、鍵穴は見つからない。

鍵穴などないのではと、疑心暗鬼になっていると、左側の三番目の部屋の壁にやっと空洞を発見し、その奥に鍵穴を見つけた。

「高杉君、カギを開けてみてくれ。」

高杉が慎重にカギを鍵穴に差し込み、ゆっくり回す。

カチッ

「開いたぞ。」

高杉が中からそっと取り出したのは、古びて変色した短剣だった。

ずっしりと、重い。

「割と小さいのね。」

と、ヒラメが言った。

「これくらいなら、どこにでも隠せて、好都合だ。」

そういって高杉は、重い短剣を布で包んで、リュックにしまい、

「さあ、ここから出ましょう。予定よりだいぶ時間がかかった。誰にも気づかれないように自宅に戻るまで気を抜かないように。」

と、高杉が皆を促し、ヒラメと並んで歩き始める。

「ヒラメ、大丈夫か?。今日は朝からボーっとしてるけど、また悪夢とか見てうなされてないか?。」

「大丈夫。最近は少し良くなった。みんなに話したから安心して脳天気に戻りつつあるみたい。」

「そうか、ヒラメが脳天気でないと、皆が困るからな。」

「タカピー、今日はどうして眼鏡なの?。」

「ああ、いつもはコンタクトだが、地下室が埃や蜘蛛の巣で汚れていた場合、眼鏡のほうが活動的だからな。」

「そうか、タカピーは眼鏡が似合うよ。」

つい、本音がでたヒラメは真っ赤になるが、暗がりが味方してタカピーには悟られない。

「そうか?。ヒラメがそういうなら、これからは眼鏡にしようかな?。」

タカピーも、うっかり本音を出して、これまた真っ赤になったが、幸い暗くてヒラメには見えなかった。

なんだかいいムードになった二人をみて、キララはそっと写真を撮った。

「今何か光った。キララか?。何してるんだ?。」

「あ、写真撮ったのバレちゃった?。二人があまりに、いい雰囲気だったから、つい。あとで、インスタ送ってあげるね。」

相変わらずの、キララだった。

地下道の冒険が終わり、四人は快い達成感のようなものを感じていた。

この四人なら何でもできる、そんな感じがした。

まるで冒険者のパーティがダンジョンを制覇した時のように。

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