第21話 作って売るよ!! 2

「おぉぉ……夏の祭典ってかこの手のイベントは初めてだけど凄い人だなぁ……」


菜月の出店を手伝うって事でグッズの追加とお手伝いの為に俺は愛央達を連れて会場の搬入側から中の様子を除いて居た。


「私も初めてだけど凄いねぇ……菜月ちゃん大丈夫かな?」

「今は門倉さんと一緒にやってるんでしたっけ?」

「スケブの依頼とかに対応する為にだっけ?柚美ちゃん達は?」

「柚美ちゃんも涼ちゃんも帰省で来れないらしいし早めに持っていこうか。」


俺達はスタッフに借りた籠車にグッズを積み替えて帽子とマスクを付けた状態で菜月のブースまで物を運んで行った。

近付くにつれ良く分かるんだが……菜月のブースがヤバい事になってる……人、人、人、人……何処から集まって来たのかと思うほどの人の群れ。


「なぁ……流石に俺でも分かるんだけど、この中に俺が入るのって不味い……よな?」

「う、うん。でも、他で待機してるのも不味いよね。」

「で、ですね……悠馬さんだとバレたらそれだけで大騒ぎになりますし。」

「いっその事、思いっきりバラシて声出して開けて貰った方が早いんじゃない?YouMaファンの民度の高さを信じてさ。」


確かにそれも手だけど……愛央達と離れて搬入口に戻って待ってたとしてもスタッフとかへの対応の問題もあるし突っ込んだ方が安全かこれ?


「取り敢えず、このまま行こうか。バレたらバレたでその時だな。」


愛央達と顔を見合わせて頷いた後に籠車を押しながら俺達は菜月を目指した。


…………………………………………………………

SIDE 菜月


「すいません!こちらは今、品切れになってまして補充が届くのはもう少しかかります。」


本当に不味いです、兄さんに人気があるのは分かってますけど、このイベントでこんなに売れるなんて思いもしてなかったです。


「菜月ー先輩からの連絡は?」

「まだ来てないです。時間的にそろそろ到着してるとは思うんですけど……」

「だよねぇ。早く来て貰えないかな……てかファンサイトまで立ち上げて通販もしてるのに何でこんなに……」


ほんとそれ……毎月の売り上げも凄いですからこのイベントではそんなに売れると思ってませんでした……完全に予想外です。


♪~♪~♪どれだけ道が暗くてどれだけ迷っても♪~♪~♪

♪~♪~♪どれだけ遠回りでも振り返る暇は無いから♪~♪~♪

♪~♪~♪立ち止まって休んでも良いから新しい朝はきっと来るから♪~♪~♪

♪~♪~♪諦めないで進めば眩しく光る朝は必ず来る♪~♪~♪


「兄さん……?ちょっと……こんなところで歌ったりしたら……?!」


突然聞こえて来た兄さんの歌声。

それは、思い出を乗り越えてのオープニングテーマであるメモリーズの歌詞。

兄さんの歌声を聞いて私は真っ青になる、兄さんがこのままじゃ大変な事に!!!


…………………………………………………………

はぁぁ……あれはヤバそうだ。

菜月を助ける為にもやるかぁ……


「悠馬?何をしようとしてるの?」

「悠馬さん?まさか……」

「愛央、志保、清華、俺が気を引くからその間に菜月と千里ちゃんの所に行って追加の品を並べてくれ。」

「気を引くってどうやって……?ねぇ……悠馬くん?」


3人が俺を心配そうな不安そうな何をやらかすつもりなの?って顔で見て来るけど俺はそれをスルーして、3人から離れ、沢山の人がひしめく場所へと足を踏み出す。


「ちょっ?!悠馬?!」


愛央が物凄く焦った声で俺を呼ぶ。

でも、混乱しきって焦りまくってる菜月と千里ちゃんの二人が落ち着く時間を作る為なら、これくらいは……ね?

そして……搬入とは違う開場エリアに足を踏み入れた俺は静かに歌を歌いだす。

その歌は……今回、菜月の漫画家デビュー?の為に、清蘭祭で大好評を博した思い出を乗り越えてをイメージして作り上げた新曲。

オープニングの曲、メモリーズ……その歌を俺は歌い始めた。


♪~♪~♪どれだけ道が暗くてどれだけ迷っても♪~♪~♪


「えっ?!嘘?!」

「ふぇ……?YouMa様……?」

「これって……まさか……」


♪~♪~♪どれだけ遠回りでも振り返る暇は無いから♪~♪~♪


「新曲!CDの曲とかかな?」

「きっとそう!てか!てか!こんなところに出てきたら?!」


♪~♪~♪立ち止まって休んでも良いから新しい朝はきっと来るから♪~♪~♪


「そうだよ!こんな目立つ事したら幾らなんでも!!」


♪~♪~♪諦めないで進めば眩しく光る朝は必ず来る♪~♪~♪


「守るっ!絶対に暴徒を行かせない!」

「そうだよ!こんなサプライズしてくれてるのに!」

「近づけさせたりしない!」


俺が歌うのを邪魔しない様、俺に襲い掛かったりする様な奴等が居るかも知れないのを危惧した人達が俺の前に陣取って俺を守る様にしてくれてる。

だから俺は、御礼の意味も込めて丸々一曲を歌い切った。


…………………………………………………………

SIDE 菜月


「菜月ちゃん!お待たせ!悠馬が会場の気を引いてる間に並べちゃうよ!」

「愛央義姉さん!でも!これじゃ兄さんが!!!」

「大丈夫です。見てください。」

「うっそ……YouMaファンの民度の高さは有名だけどここまで……?」


千里が心底驚いた顔をしながら兄さんを見てる。

でも、気持ちは私も分かる……だって……だって!


「凄い……あんなのに沢山の人が兄さんを守ろうとしてる……凄い……」


そう、買い物に来てくれて居たファンの人達が大勢、兄さんを守る様に兄さんの周りに人壁を作ってる。

兄さん…………?……?なのに?


「悠馬くんってばね?菜月ちゃんと千里ちゃんの大混乱を見て何も迷わずに歩き出したんだよ?その直前までバレない様にしないとなって言ってたのに二人が大変って分かったら直ぐにだよ。」

「歩き出した瞬間に止めようとしたんだけどねぇ……あの背中見たら……ね?」

「そうですね。そっちは任せたって語ってましたからね。あれは止められませんよ。」

「本当はこんな事するのは駄目なんだろうけどねぇ。」


開場の全員が意識を兄さんに向けている間に追加として持って来てくれた商品を義姉さん達が並べてくれてる。

私が……大変だからってこんな事……兄さん、ありがとうございます!そして、ごめんなさい!

じんわりと滲む涙をゴシゴシと拭う!兄さんが頑張ってくれてるんだから私も早く終わらせないと!


「菜月!パパっと並び直すよ!」

「はいっ!やりましょう!ここからが本番です!」


兄さんの頑張りを無駄にしない為にも、一曲終わる間に全部終わらせる!

ここからは義姉さん達も、兄さんも手伝ってくれるんだからこの会場の売り上げ1位目指してやりますよ!!!


…………………………………………………………

ふうぅ……驚いたね。まさかこうなるとはなぁ……


「皆!ありがとう!そして騒がせてごめんなさい!」


確りと頭を下げて会場に居る他の人達と人壁になってくれた人達へ謝罪を述べる。


「今の曲は妹のブースで売ってるCDに収録されています。思い出を乗り越えてをイメージして作った曲です。CDには他にもテーマソングとエンディングテーマを収録してるので自分でも素敵な曲になってると思います。なので、もし!宜しければ購入の方お願いします!」


「「「「はーーーーいっ!!!」」」」


沢山の人の了承の声を聞いて手を振って菜月達の所に収まる。

そして……分かってるよ……お説教は後で聞くからさ……ね?


「YouMaさん、こう言うのは困ります。混乱が起きなかったから良かったものの、もうやらないで下さいね?今回だけは注意で納めますけど次はブース毎、退場していただきます。ご留意ください。」

「はい。すいませんでした。そしてありがとうございます。」

「いえ、ご理解していただければそれで構いません。それはそれとして……とても素敵な曲でした。一人のファンとして立ち会えた事嬉しく思います。」


ぎゅっと感謝と謝罪を込めて、スタッフ一人一人と握手してしっかりと謝ってなんとか許してもらう。

では、頑張ってください!と応援の声を貰って離れて行ったスタッフを見送り、改めて菜月達のお手伝いの開始だ!


…………………………………………………………

びっくりしたぁ……まさかYouMaさんが登場して歌いだすとか、どんだけ度胸あればあんな事出来るんだ?


「ヤバぁ〜……ヤバいヤバい!嘘でしょ?!マ?!ヤバすぎるんだけどぉ!!マッ??マァッ?!」


姉さんの語彙が死んだ!いやまぁ、気持ちは分かるけどそこまで?てか痛いってば……バンバンって人の背中叩きながら騒がないで……気持ちは分かるけど……絶対真っ赤になってるよ。


「姉さん……痛いから!気持ちは分かるけど痛いから!!」

「あぁ!!ご、ごめん!でもだってさぁー!!」

「分かってるって俺だって興奮してるもん。」


幾ら菜月さんとお友達が居るからって言ってもこんな場所に現れるなんて思っても見なかったから姿を見れただけでも嬉しいのは間違い無い。

でも、その行動は絶対に真似は出来ない。


「コレってさ……自分のファンの人達を信じて無きゃ出来ないよね?絶対に大丈夫だって心底信じてないとさ……」

「そ、そうね。実際に目の前に現れたら飛び付かれるかもしれないのに、そんな事にはならない、守って貰えるって信じていなきゃ出来ないよ。」

「だよね……すげぇなぁ〜、俺には無理だわ。」


ジーッとYouMaブース?を眺めてた。

会場の他の人もポカーンっとしてる人も居れば、涙流してる人も居るし、これは……凄いってレベルじゃ無いな……


「さっきはすいませんでした。お詫びって訳では無いですが、コチラを……」


YouMaさんと菜月さんが同じ会場の人達に謝りながら何かを配ってる?

え?良いの?ブース離れても良いの?てか待って!こっちにも来た!!


「ちょっ?!どうしよう?!二人がこっちに!」

「分かってるから……騒がないでよ……」


遂に隣のブースまで来た!うわっ!うわっ!菜月さん可愛い……すっげぇ綺麗……直視できない……待って?待って?これから俺達は話すの?この二人と?マジかぁぁ……


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