第18話 進路3
「どうですか?先生。」
子犬達が俺に懐いたからなのか、母犬も警戒心を解いて側に寄ってきた。
これ幸いと俺は母犬を抱き上げて志保に調べて貰った近くの動物病院へと駆け込んで怪我の治療をして貰って居る。
「うん。これなら時間はかかるけど良くなるしまた走り回れる様になるから心配いりませんね。」
「良かったぁ……元気になるって!頑張ったね〜お母さん。」
ふすっ……と愛央に撫でられながらも何処か誇らしげな母犬を眺めながら俺はこれからの事を考えていた。
「何日か入院が必要ですよね?子犬達も居ますし……」
パタパタと尻尾を振りながら母犬にじゃれ付いたり志保や清華に抱かれてご満悦な子犬達。
他の看護師達や先生達も子犬の可愛さにメロメロになってると思う。
微妙に熱っぽく俺を見てる気もするけど犬を見てるんだよね?
「そうですね。こちらで預かるのは問題ありませんよ。その後はどうしますか?」
そのまま預けるのか?それとも引き取るのか?と視線で俺に訪ねてくる。
「帰って母と話してみます。引き取るにしてもその後の事がありますし、子犬達の引き取り手も探さないといけませんし……」
卒業後は家を出る事になると思うし余り無責任な事は出来ない。
一時的に引き取るにしても、最後まで面倒見るにしても助けた以上は責任重大だ。
「分かりました。ご連絡をお待ちしています。」
「またな?明日も様子を見に来るからな?ちゃんと言う事を聞いて良い子にしてるんだぞ?」
「くぅ〜ん……わんっ!」
分かってるのか分かって居ないのかは分からないけど俺の言葉に返事?をして余り動きたくないのか落ち着いた感じで横になった母犬と心配気に側に居る子犬達を眺めながら俺達は診察室を後にした。
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「志保、少し見ててくれ。お金下ろしてくる。」
「え、あ、はい!分かりました。」
「私達も出すよ?悠馬。」
「そうだよ、悠馬くん。」
「私達で連れて来たのですから、ここは悠馬さんだけがと言うのは駄目です。」
「わ、分かってるよ……ほらっ!精算は一回で終わらせた方が早いでしょ?ってだけだからさ。」
嘘くさいなぁ〜……と言う三人の視線から逃げる様に俺は病院から出て行き道路を挟んだ真正面にあるコンビニへと急いだ。
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SIDE 愛央
「絶対、一人で払う気だったよね。」
「間違いなく。悠馬さんにも困ったものですね。」
「まぁまぁ……そこが良い所でもあるんだしね?」
とか言いながら清華さんも苦笑いじゃん。
「おそらくですが、一旦は逆月家で皆引き取るでしょうけど、問題はその後ですね……」
「そうだねぇ。葵さんは仕事で普段は居ないし、菜月ちゃんと悠馬くんも学生だから基本は居ないし、母犬だけなら兎も角、子犬ちゃん達を日中にそのままって言うのも危ない気がするしねぇ。」
「とは言え、家もそこは変わらないしな~……志保さんの所は飲食店だしねぇ。」
うーん……これは結構困ったかも?とは言え無視して見殺しにするって選択肢は無かったから助けたのは良いんだけど。
「んー……でもまぁ、なんとかはしそうな気がするけどねぇ。会社に連れて行って面倒見るかもだし?」
「大丈夫ですよ。子犬だけなら兎も角、母犬も一緒なら日中は放っておいても問題はありません。」
看護師さんが私達の会話に混ざってくる。
「そうなんですか?」
志保さんが不思議そうな顔をしながら聞き返してる。
「はい。子犬だけでは手をかけないといけませんが母犬が一緒であれば。それに懐かれてますし?教えれば問題が無い様な気がしますよ?」
最後は疑問符ついてるじゃん?
「ごめん。お待たせ。」
悠馬が帰って来た!ちょっと時間かかったけど混んでたのかな?
「おかえりなさい。少し時間がかかってましたけど混んでいたんですか?」
「あぁ、いや。母さんに先に電話して少し話をな。そしたら全部引き取るって言ってくれたんだ。それで何ですけど……」
悠馬が看護師さんに向かって話しかけてる。
ねぇ……何で赤くなってるの?何で熱っぽい視線向けてるの?か・ん・ご・し・さ・ん?
「犬を飼うのが初めてなんですけど、何を揃えたら良いですか?」
「えっとですねぇ……先ずは……」
色々と説明してるけどさぁ……
「何で胸元開けてるんですかねぇ?」
「何で身を乗り出してるだかねぇ……」
志保さんも清華さんもジト目で看護師さんを睨んでる。
「分かりました。ありがとうございます。」
「いえいえ!何時でも聞いてください!あっ!直ぐに聞けるように私の連絡先を……」
「はいはい!清算は終わったんだからもう行くよ!」
悠馬の腕を掴んでカウンターから引き剝がす。
志保さんも清華さんも一緒になって悠馬を出入り口まで連れて行って病院の外に連れ出した。
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「ど、どど、どうしたんだ?3人共。」
「どうしたじゃ無いよ!あの看護師さん!良い歳して悠馬に色目使って!」
「何で説明するのに胸元開ける必要あるんですか?身を乗り出して近づく必要も無いです!」
俺に言われても……
「まったく!悠馬君はもう少し警戒心ってものを持ってよ!」
「全く気にしてなかった……すまん……」
3人に責められながら病院を後にする。
取り敢えず、家に帰って菜月に話すのと、買い出しの準備かなぁ?
その後、血だらけの服で出歩くのもってんで家に皆で向かった。
帰宅後に状況を知らなかった菜月が俺の姿を見て思いっきり取り乱した。
「イヤァァァァァァ?!兄さん?!びょ、病院!救急車?!」
と……大騒ぎになったんだが……まぁ、気持ちは分かる、俺だって菜月が血濡れで帰ってきたら取り乱すし?
俺は着替えとシャワーの為に離れたが、その間に愛央達が菜月に説明したらしく戻って来た時には子犬の写真を見て4人で盛り上がっていて一度、親子を引き取る事を話したら更に大喜びで名前まで考え始める始末。
「あんまりのめり込むと誰かに譲る時に離れられなくなるぞ?」
「えっ?!手放すんですか?兄さん!!」
「何をそんなに驚いてるのか分からないけど、基本的に家には人が居ないだろ?それなのに子犬の世話はやり切れないだろ。貰い手は探さないと行けないのは変わらないさ。」
「母犬も一緒だから大丈夫って言ってたよ?」
「だとしてもだ。命を預かる以上、無責任な事は出来ない。」
「それは分かりますけど……」
「うん、まぁ……ごめん。意地悪だったな。それでなんだけど暫くは面倒を見るのは変わらないから近い内に色々と買い物に行かないと行けないのは覚えておいてな?」
「は~い……でも、クラスの子とか聞いてみて引き取ってくれる子居たらその方が幸せですか……」
「私達もグループで聞いてみますね。」
「俺もそうするよ。他にも母さんの方でも探すだろうしさ。2匹とかなら兎も角、4匹は面倒を見切れないしな……」
親子と兄妹をばらばらにするのは可哀想だけど引き取ってもらった先で幸せになってくれたらそれが良いと思うし近所なら会えるからな。
菜月と愛央、志保、清華と一緒に犬達の名前を考えながらその日は過ぎていく、そしてみんなが帰った後に俺は自室に戻ると、出かける時には気付かなかった変化に気付く、何時の間にか本棚から落ちていた本を俺は手に取った。
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「何の本だ?」
俺が今まで触って居なかった場所、過去の悠馬の痕跡、日記があった本棚から何時の間にか落ちていた一冊の本……それを手に取った。
「え……?獣医学書?」
ぱらぱらとベージを捲る、その本は俺が今日買ったのと同じ本。
「なんで……?悠馬も?まさか……」
本棚に戻した後に日記を読み進める、この事、書いてないか?
「まさか悠馬も目指していたのか?」
その後、寝ずに悠馬の日記を読み進めて行く、深夜を過ぎ外が明るくなって来た頃に遂に見付けた。
「あった……これか。」
部屋でテレビを見ていた時、動物関係の内容、飼い主を支えるペット、海外のペットを捨てる時のやり方への怒り、運ばれて来た仔を助ける医師達への思い、それを見た悠馬の感想。
「そっか……そうか……!人は嫌でも動物ならか……こんな俺でも命を救えるかもしれないなら……ね。」
そこまで考えていたなら、生命活動を止めなきゃ良かったじゃねーか、馬鹿野郎!葵さんが!菜月が!どれだけお前を思っていたのか!
「あれ?これは……」
MMO?仲良くなった相手からの裏切り?信じてみようと頑張って信じたのに……ね……
「アニマルセラピーってのとも違うかもしれんけど、ある程度頑張ろうとしていたところにトドメにねぇ〜……」
気持ちは分からなくも無いけど……
「この世界では簡単に相手と会うなんて出来ない訳だし適度な距離を守れなかった自業自得か。」
元の世界でも直結だのなんだの言われて妬まれるとかだったしこっちなら更にだろうな。
「つか人の恋路に首ツッコんで騒ぎ立てる方が頭狂ってるっての!……っと嫌な事思い出した……」
兎も角……悠馬も目指していたなら、俺も過去に目指した事があったのを思い出した今なら……
「悠馬……お前の夢は俺が叶える。俺と悠馬の夢を今の悠馬である俺が叶える。見届けてくれ。」
悠馬の日記を胸に俺の進路がここに決まった。
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