第17話 進路2
あれ?これって……悠馬の日記?
「日記なんてつけてたんだ。」
パラパラとページを捲りながら俺は内容の確認をしていく。
そこには、自分の状況と思いと、母さんと菜月との距離感、この世界への絶望感、未来に希望が持てない事、停滞していて男女比が変わらず人口の減少や少子化への考えなんかが色々と書かれている。
「悠馬……」
これは俺も疑問ではあったのだが、男女比がおかしい事で何故、人類が減らないのか、何故、女性の比率が多いのか大きな戦争なんかで男が一時的に減るのは分かるけど、女性が多く産まれる理由、男性が少ない理由がどうしても分からなかった。
破壊を行うのは男、生み出すのは女と言うのはどんな世界でも変わらないけどだからと言ってそのままでずっと成立すると言うのはおかしいと感じてしまう。
元々の世界でも数で言えば女性の方が多いが、比率で言えば1:1なのは変わらないからな。
「国の政策でとかそう言う理由だけでは説明がつかないからな……神様の実験とか遊びって言われたらそれまでなんだけどさ。」
ペラペラとページを捲る。
他人の日記を見ると言うのはマナー違反なのは分かっているが、本人でもあると言うおかしな状況に一人で苦笑い。
「あれ?これって……」
とあるページには菜月がお風呂でのぼせて洗面所に倒れていた事、それを助けた事が書いていた。
他にも母さんが自分の為に頑張ってくれている事への感謝が書いてる。
「悠馬……お前さ……ん?」
菜月を助けた時、女性に対する嫌悪感が無かった事、そんな事よりも家族が居なくなるかも知れない恐怖、
「自分も将来、誰かを助ける仕事を……」
でも、赤の他人は絶対に無理な事、触れるのも嫌な事が書いてあってどうしたら良いのか分からなくなって辛い事が書いてある。
そして何より自分に出来る事なんて何も無い、色々試してみて何も夢中になれなくて物だけが増えてお金を使わせた事への後悔。
「何も出来ないかぁ……悩んでたんだな……」
「兄さん〜、義姉さん達が来てますよ〜?」
「え?あぁ!やっべ!約束の時間!!直ぐに準備して行くからって伝えてくれ!」
日記を元に戻し、俺は急いで準備をし始める。
そんな俺を尻目に日記が置いてあった棚から一冊の本が落ちていた。
…………………………………………………………
「ほらほら!今度はあの店!」
「分かったから落ち着けって愛央。」
くすくすと笑いながら先行する愛央を追いかける志保と俺と清華でモールの中をぶらぶらしてる。
「全く……子供みたいにはしゃいで……」
「良いじゃないっ。むすっとしてるよりも良いでしょ?悠馬くん。」
「まぁ……それはね。とは言え子供じゃ無いんだからさ。」
「悠馬!ほらいこっ!」
俺の手を引いて引っ張る愛央にそのまま付き合って愛央のお目当てのお店を覗きに行く。
「何か捜してるの?」
「んーん。見に来ただけっ!良いなってのあったら買うかもだけどねっ。」
「じゃー見て回るか。志保と清華も既に見てるしゆっくりだな。」
「うんっ!いこいこっ!」
気を使われてるよなぁ……まぁ、嬉しいけど申し訳ないと言うか……
「悠馬くん!これとかどう?」
「悠馬さん!こっちも良いと思いません?」
「ねね!これ可愛くない?」
小物、服、靴、アクセサリー、一緒に住む様になった時の家具とか寝具とか見て回ったけど……同棲するの?嫌じゃ無いけどさぁ……母さんが許してくれない気がするんだけど?
まぁでも、卒業して進学したら4人で住むのは楽しいかも知れないなぁ……結婚したら一緒に住むのは間違いないけどさ。
「あ……本屋行っても良いか?」
「勿論ですよ。行きましょうっ。」
モールの中にある本屋さんに4人で入る、俺は真っ直ぐに専門書の辺りや参考書の辺りに向かってじっくりと見て回る。
その間に、愛央も志保も清華もそれぞれの趣味の本の辺りを回っているみたいだ。
「動物関係か……そういや俺も昔は……」
生前の幼い頃の夢は獣医だった……子供の頃に飼って居た犬が死ぬ時を看取りはしたし、寿命だったのも分かってるけど俺に知識があればって思って獣医になって少しでも助けられたらって思ってた事あったな。
「大人になるにつれて忘れてしまっていたなぁ……成長するってのはそう言うものなのかも知れないし貧乏とは言わないけど、そう言う学校に進学出来るほど裕福でも無かったからな……」
獣医か……この世界、いや今の俺なら自分のお金でも学費は払えるし生活も出来るし目指せると言えば目指せるけど……
「獣医学の本ですか?」
何時の間にか志保が俺の隣に来ていて俺の持って居る本を覗き込んでいた。
「あぁ、志保か。うん、そう何となくだけどね?」
「興味あるの?」
清華も俺達に合流して聞いてくる。
「そうだね。動物は好きだしこうやって助ける為の知識とかあればってのはあるかな。」
「悠馬くんらしい?気がするけど実際に開院したらすごく繁盛しそうっ。」
「悠馬目当ての人達でねぇ……」
それはちょっとありそう……
「それは兎も角、買っていくかな。3人は何か買うのか?」
「うんっ!捜してる漫画あったから買ってく!」
愛央は漫画、志保はレシピの本、清華は音楽関係の本とそれぞれが本を手にしていたのを俺は受け取って……ほぼ奪う形でだけど清算をさっさと済ませて店を出た。
後ろからちょっと?!自分でお金出すよ?!等々と文句?が飛んで来るけど無視した。
「何か聞かれそうだったから誤魔化す意味で買ったけど上手く行ったかな。」
獣医師かぁ……悠馬の夢が見付からなかったら良いかもな……
…………………………………………………………
「全く!本くらい自分で買うってば!」
「まぁまぁ、これくらい良いだろ?どうせ清算するんだし一緒にやった方が効率的だよ。」
「そういう問題では……全く……」
「二人共その辺でね?次は私達でお金出せば良いんだしね?」
「うんうん。それで良いのよ~。」
けらけらと笑いながら俺は歩いて行く。
そんな俺を追いかけながら3人が話しながら直ぐ隣に来た。
「……わふ……ウゥゥ……」
「ん?なんだ今の?」
「どうしたんですか?」
志保が俺の声に反応して聞いてくる。
「いや……何か鳴き声?が聞こえた気がして。」
「ウゥゥゥ!グルルル!キャインっ!」
「あ!聞こえるね!犬かな?何処からだろう?」
「キャイン!って聞こえた?争ってる?」
「こっちだ!」
俺は直ぐに走り出し声の聞こえた方へと向かう。
「悠馬?!」、「悠馬さん?!」、「悠馬くん?!」
3人の声を無視して俺は鳴き声が聞こえた場所へと一気に向かう。
そこには……
「良く頑張ったな!良い子だ!」
「うわっ!このぉ!あっち行けぇ!」
俺を筆頭に愛央、志保、清華が一匹の母犬とその後ろに居る数匹の子犬の前に立ちふさがる。
「ほら!お前もあっちに行け!やらせねぇぞ!!!」
子犬を狙う大きめの鳥、それを必死に守る母犬を助ける為に鳥を俺は追い払う。
鷹なのか鳶なのか鷲なのか分からんが襲い掛かろうとしてるのに合わせて手で払ったりして、鳥の方も傷付けない様に続けて居たら諦めたのか何処かに飛んで行くのを見届けて俺は犬達に向き直る。
「グルルル!ウゥゥゥ!」
俺達からも守ろうと襲われて怪我をしたのか足から血を流したまま俺達にも唸ってる。
「3人共離れて……大丈夫だ。俺は味方だ。絶対に傷付けたりしない。」
ゆっくり、ゆっくり近づいて……声をかけながら手を下から出しながら近づく。
「悠馬さん!駄目です!」
「大丈夫……信じてくれ。傷付けたりしない。大丈夫……大丈夫……」
「ウゥゥ……ガウッ!」
ガキンッ!と噛み付いて来たのを避けるのと同時に歯が当たる音が響く。
でも……
「あれま……」
子犬達が俺にじゃれ付いて来て……
「きゃんっ!きゃんっ!」
「わっ!ととっ!」
「ずるい……もふもふ天国じゃん……」
愛央がじゃれ付かれてる俺を見ながらそんな事を呟く……気持ちは分からんでも無いけどちげーだろ……?
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