第13話 働きませんか?!
SIDE 陽依里
「何とかなって良かったわ。」
路地裏から最後に出てきた悠馬さんがそんな事を零す。
「全く!あんな危ない場所には二度と行くんじゃ無いぞ?!何とか何も起きなかったから良かったものの?!!」
「ご、ごめんなさいっ!!」
悠馬さんが私に対して本気で怒ってる。
でも、これは心配もあるんだって分かるから怖いのは怖いけど少し嬉しい。
「はぁ……まぁ何も無くて良かったよ。声、荒らげてごめんな。」
ポンポンと私の頭を撫でなから私に謝ってくれる。悪いのは私なのに……でも、お姉さん達を助ける事が出来たから後悔は無い。
それが分かっているのか、私を見て一度、頷いた後にお姉さん達に向き直った。
「それで?チーム抜けようとしていたのは分かったけど、他に方法無かったのか?」
「話したら、あの流れになりまして……その……」
「またしてもご迷惑を………」
「「「すいませんでしたっ!!!」」」
「はぁ……もう良い。お前等はお前等で取り巻く環境を変えようと努力していたってのは分かった。」
「これからどうするんだ?」
「何処か働き口を探そうと思います。このままフラフラしてるのは駄目だと思いますし。」
「でも、頭も悪いし柄も悪いから無理なのかなぁって……」
「私達みたいなのが働ける所があるかは分かりませんけど、その為にも先ずはチーム抜けて問題なくしないとって必死で………」
ふむふむ……お姉さん達はお姉さん達で悩んで考えて頑張ろうってやってたのは間違いないんだ。
それなら……丁度良かったかな?
私は、考えていた事、お母さんとお姉ちゃんから許可を貰っていた事を直ぐに伝える事にして、悠馬さんの前に出る。
「陽依里ちゃん?」
私の行動に不思議そうな顔をして悠馬さんが見てくる。
「皆さん、もし良ければですけど、雪村で働きませんか?」
「は、はい…?」
「どゆこと?え?雪村って?あの雪村??」
もう一人は言葉も出ないみたいで私の言った事を理解しようとしてる?のかな?
「そうか……そう来たかぁ……だから陽依里ちゃんはあの路地裏に行った訳ね。」
「はい!お姉さん達があの路地裏に良く居る事は分かってました。私を助けてくれたお礼は何が良いのかと、お母さんとお姉ちゃんと沢山、話しました。」
黙ってお金?単純に言葉を伝える?それとも菓子折り持って挨拶?全部が違う訳では無いけど、正解では無い気がすると私達、家族は毎日話していた。
でも、答えは出なくていっその事聞いてしまおうかとなった一環として調べてみたら、良く居る居場所が分かったんだ。だから、今日は勇気を出して向かってみたら、あんな事になってて……悠馬さんには悪い事しちゃいましたけど………
それに、探している内に悠馬さんにお願いをしてくれて、一気に解決まで持って行ってくれた恩人にどんなお礼をしたら良いのか分から無かったけど、雪村としても守れるし、お仕事先も斡旋できるから、お母さんに話してみたら人手は足りてないから、流石にアルバイトにはなるけど、お姉さん達が良ければ是非とも!と言われたんだ。
「え?いやいやいやいやいや!!無理でしょ?!雪村グループで働くとか私達みたいな底辺がそんな事!!」
ウンウンと、首とれますよ?って思うくらいの勢いで残りの二人も頷いてる。
「年齢と学歴なんかもありますので社員という訳には行きません……そこはごめんなさい!でも、アルバイトにはなりますけど、お姉さん達が良ければ私の側で働いて貰えませんか?お姉さん達が本当は優しい事も面倒見が良い事も知っていますし、何より私がお姉さん達の事は好きですしっ!」
いやでも……それは流石に……ねぇ?
アルバイトなのは当然としてもそれを抜きにしても私達が雪村にってのは……ねぇ?
恐れ多いって言うか……流石に不味いんじゃ?って思うしさ。……と、ぶつぶつと話してるけど、私が言った事を飲み込もうと必死になってるのがちょっと嬉しい。
「良い話じゃねーか。悩むならのれよ。玖美子さんの許可はあるんだろ?」
私は悠馬さんにコクリと頷く。
それを見た悠馬さんは直ぐに続きを話し始めた。
「代表取締役の許可があって、その娘が直接勧誘に来てるんだ。悩む事なんかねーだろ。見た目なんざ今日から直ぐに直せば良いだけの話だ。それに、何かあった時の後ろ盾に雪村が付いてるってのはこれからお前達が真面目にやり直したいと考えているなら、尚更だ。」
「でも……本当に良いのかな……?私達だよ?」
「良いんです!私がそうして欲しいんです!駄目…ですか…?」
「えっと……宜しくお願いします……」
「お願いします……」
「髪色戻して、ピアス外して、化粧も薄くしてと言葉遣いと礼儀作法と……覚える事とやる事が一杯だけど、死ぬ気でやれば問題ねぇな。今までのツケってやつだ。死ぬ気で……いや、死んでもやり切れ。」
いや……せめて生かして下さいって、悠馬さん……私達がブラック企業みたいになるじゃないですかぁ……
…………………………………………………………
「新人!早く持ってきなさい!!!作業遅れてるよ!!!」
「は、はいっ!すいませんっ!急ぎますっ!!」
ひぃぃぃ……華やかな現場の裏側ってこんなにきっついんだ……
「きっつぅ……裏方の仕事ってキツイんだなぁ……」
遠い目をしながら怒られない様に急いで必要な物を運んでいく。
怒鳴られたり……キツイ態度取られたりして、前までの私達ならキレて反撃してたのに、今は私達が足を引っ張って作業が遅れて迷惑かける事の方が嫌だと思うのだから変わるものだよね。
「とは言え……仕事がキツイのは変わらないけど……」
私の呟きに、仲間の二人も頷いてる。
「早くしろ!!遅れてるぞ!!」
「「「すいません!!!」」」
チキショウ……負けるかぁぁぁぁあ!!!
…………………………………………………………
はぁ…はぁ…はぁ…きっつ…
バックヤードの一部、休憩できるエリアで私達はぶっ倒れてる。
「何で…他の…スタッフ…何とも…無いの…」
それね……これでも体力はあると思ってたけど何処にも足りない……
「あぁ!居た居た!貴女達!ちょっと着いて来て!」
えぇぇぇ…休まないと持たないんだけど……
「「「わ、分かりました……」」」
とは言え、逆らう訳にも行かないから着いては行くけどさ……
私達3人は、着いて来なさいと言う声に従って、呼びに来たスタッフに連れられてある場所に到着する、そこは……
「「「わぁぁ…凄い……」」」
「どうかしら?貴女達が作ったのよ?この景色。」
自分達が関わったステージで詩音さんが歌って踊って居るのを見惚れながら見ていた。そんな私達に声をかけて来た人が居る……何時の間にか私達の後ろには一人の女性が居た、その人は今、ステージで歌って踊って居る詩音さんのマネージャーの星谷九羅華さん。
「す、凄い……でも、私達だけで作った訳じゃ無いし……」
「それに、足も引っ張ってるだけだと思うし……」
「悔しいけど、私達が作ったって言うのは違う気が……」
「そうね。それでも貴女達も頑張ったのは確かでしょ?」
それは確かにそうかもだけど……でも、やっぱり……
「まだまだ新人、やり始めたばかりなんだから足を引っ張るのも上手く行かないのも当然よ。」
「で、でも!だけど!」
「それでも貴女達は投げ出さなかった。こうして形になるまで頑張ったのは事実でしょう?陽依里お嬢様や悠馬さんの紹介とは言えね。」
「「「は、はい!」」」
あの路地裏の1件の後、陽依里ちゃんのお礼として私達はアルバイトとは言え、まさかの雪村グループで働く事になった。
髪も黒に戻してピアスも外して、化粧も軽くにして見た目だけは真面目に戻して……ここ数日は大道具係りで詩音さんの舞台の設営の仕事をしていた。
他にも、モデルさん達の衣装を飾ったり、部署と部署の間を走り回ったりと、社内や社外で雑用をこなしている。
「私達にも…出来るんだ……」
「そうだね…そうだね!出来るんだ!」
「どんなにキツくても折角貰ったチャンスなんだから、絶対に負けない。絶対に裏切ったりしない!!」
話を貰った後に帰宅して、母親に話をしたら今までの事もあって泣かれて、叩かれて、怒鳴られて、それでも……抱きしめられた。
真面目にこれからの事を考えてくれる様になって嬉しいと、沢山の人に迷惑をかけた以上に、恩返しになる様に死ぬ気でやりなさい!と発破もかけられた。
この話を二人にもしたら、二人も同じだったみたいで、本当の意味で私達は立ち直れたのかもしれないって感じたんだ。
「なんかさ……愛されていたんだなって、見捨てないで居てくれる人が一人でも居るって凄く嬉しくて幸せな事なんだなって分かったよね。」
うん。本当にその通りだと思う。
星川の事もそうだ、あの日、私達を見捨てて私達が死ぬのを見ていても誰も星川が悪いとは言わないだろう、私達の自業自得だと言われて終わる話だった筈……それなのに、星川は自分だって怖いはずなのに、私達を庇った。
その時に思ったんだ……本当に強いって言うのはこう言う事なんだって……私達の強さなんて強さとは言わないんだって……あぁ…勝てないって本当に思ったんだ。
「貴女達の事はある程度は聞いています。ですが……」
星谷さんが私達を見ながら言葉を紡ぐ。
「真面目になろうと、努力しようとして居るのを見れば誰だって応援したいと思う筈。そして、まだ若いのだから、間違いを犯してもやり直せるのです………分かりますよね?」
「「「はいっ!!」」」
「間違わない人は居ません。ですが、間違えを認め謝り、次は間違え無い様に努力する。そして、自分を許してくれた人に感謝を忘れない。それだけは忘れてはいけませんよ?」
「ありがとう……ございます……」
涙が溢れない様に頑張るけど声はどうしても震えてしまう。
二人なんてぼろぼろ泣いてるし。
でも、こんなどうしようも無い自分達を許して、感謝してくれた人が居る。好きだって言ってくれた人が居る。
それどころか、仕事まで斡旋してくれて助けて貰ったんだから私達はその恩に応えるだけ!
それがこれからの私達の生き方だと思うから……!
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