第4話 卒業式
今日は卒業式…清華が遂に学校から卒業する。
何時もの朝の待ち合わせ場所…そこには清華が一人で待っていて朝の陽射しに照らされたその姿はとても美しい。
知り合って二年、子供っぽさもあったその姿は今では大人の女性と言っても差し支え無い程の美貌に変わった。
制服を着ているからかろうじて子供だと分かる位。
「あっ!おはよっ!悠馬くんっ!」
ボーっとしていた清華は俺が近付いてきた事に気付いて弾けるような笑顔で朝の挨拶をしてくる。
そんな眩しい笑顔に俺は見惚れてしまって……
「どしたの?具合いでも悪い?」
挨拶を返せなかった俺を見て体調でも悪いのかと心配気な顔で尋ねてくる。
「ふふっ。大丈夫だよ、単純に清華に見惚れただけだからさ。」
「見惚れてたってっ///見慣れてるでしょ?」
「確かに慣れてるけどそれとは別だよ。俺が清華に見惚れない日は無いんだから。」
「もうっ///」っと…照れながらも俺に腕を絡めて来てそのまま歩き始めた。
「今日で最後かぁ〜…二年間楽しかったなぁ……」
「色々な事があったもんな。沢山の事……良い事も悪い事も沢山。」
「そうだねぇ~…今でもあの時の悠馬くんの背中は思い出せるしね。」
「あの時は身体が動くままに動いて、ふざけるな!って思いしか無かったからなぁ〜……ほんとに良くやったわ俺。」
「でもそのお陰で今があるから私は感謝だし、あの背中は本当に……」
顔を赤くしながら当時の景色を思い出しているのかな?清華もだけど、俺も思い切ったもんな。
「なぁ……清華。」
「な〜に〜?」
「留学の話、断ったの本当に良かったのか?折角のチャンスだったのにさ。」
会えなくなるのは俺も辛いけど、それで清華の未来の可能性が減るのは俺の望むところじゃ無い。
だから、どうしても…気になってしまい俺は訪ねた。
「もぅ〜…前にも言ったけど良いの!!」
「いや、でもさぁ……」
「それとも悠馬くんは私と離れたいの……?」
「そんな訳無いだろ!側に居てくれるのは嬉しいぞ?でもそんな我が儘で清華の未来がってのは流石にさ。」
「あのね?気持ちは嬉しいよ。私の事をちゃんと考えてくれてるのは分かるし嬉しいけど、私が私らしく私の音を奏でられるのは、悠馬くんが側に居てくれるから……私の音は悠馬くんに出会って完成したの!だから悠馬くんの側から離れたら、私は今の沢山の人を感動させる音は奏でられなくなるんだよ。」
自分の音…清華としての音かぁ…それを言われたらなぁ〜……
「そっか……分かった。もう言わない。ありがとな、清華。」
「全くもうっ!でも……私からもありがとねっ。」
清華の最後の登校日を二人揃って…あんな事があった、こんな事があったと話しながら惜しむようにゆっくりと歩いて、校門まで辿り着くのだった。
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「悠馬ー!清華さんー!おはようっ!」
「悠馬さん、清華さん、おはようございます。」
校門で愛央と志保の二人が待っててくれて……清華の最後の登校日だからと、二人は気を使い朝は俺と清華の二人だけにしてくれたのだ。
「おはよ、愛央、志保。」
「二人共おはよっ!」
俺から離れ、直ぐに二人の近くに寄って今朝のお礼を伝えながらニコニコと楽しそうに話す三人の姿……これも、この場所でこの景色を見れるのも今日が最後か……そう考えたら新学期から清華が学校に居ない事実が俺に伸し掛かる。
「……あ、悠馬っ。大丈夫だよっ。」
「何が…?」
「私達はこれからもずっと一緒だから!何も心配なんていらないよっ。」
全く……流石は愛央だなぁ〜……本当にさぁ……良い女だよ。
「そうだな。その通りだな。よしっ!今日は教室まで清華をエスコートしないとだし先に行くよ!」
「うんっ!また後でねっ!志保さーん!そろそろ!」
「はいっ。では、清華さん、悠馬さん…また後でですっ。」
二人の見送りを背に受けながら俺は清華を連れて、校内でも腕を組んで清華の教室まで確りとエスコートした。
…………………………………………………………
「それじゃ…また後でな。」
「うん…後で…ね?」
清華が名残惜しそうに寂しそうに俺なら離れる。
最初に腕を離してゆっくりと繋いでいた手も離して行く。
「全くっ!ほらっ!」
「ゆ、悠馬くんっ?!」
指が離れる前に俺から繋ぎ直してそのまま引き寄せ清華を抱き締めて……
きゃぁぁぁぁぁっ!!と、俺達の姿を見た他の生徒達が歓声をあげるけど俺は気にせずぎゅっと強く抱き締める。
「悠馬…くん…っ///」
俺の背中に手を回して抱き締めてくる清華……そんな清華が落ち着く様に、何時も一緒だと、伝える様に……
「悪いんだけどさぁ〜…その辺にしといて欲しいかなぁ〜?清華の気持ちも分からないでも無いけど別に今生の別れでも無いでしょうに……」
そんな俺達の後ろからというか、教室から優希先輩が呆れた声を隠さずに話しかけてくる。
「うぅぅ…だってぇ…」
「はいはいっ!悠馬くんも早く教室行きなさい!清華はこっちで預かるから!」
「ういっす…分かりました。また後でな?清華、愛してる。」
「私も愛してるっ!後で…ね…?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……早く来なさい!!全く!!」
先輩に引き摺られながら教室の中に消えて行くのを見送って俺も自分の教室に向かった。
…………………………………………………………
SIDE 清華
「これより、卒業式を始めます……校長先生、挨拶。」
遂に私達の卒業式が始まった。
家から近いから、進学校だから、吹奏楽がそこそこ有名だから、学校が綺麗だから、制服が可愛いから…進学先に選んだ理由はその程度の理由だった。
そして、時にイベントも無く出会いも無く友達とワイワイやりながら過ごして特に特出する事も無い3年間で終わる筈だったのに……ね……
「それがまさかこんな事になるなんて……」
私の呟きが漏れる…だってそうでしょ?何も無く一年が過ぎて新しい季節が訪れるのと同時に前触れも無く現れたYouMaと名乗る一人の男性。
その人と知り合い、後輩になり、恋をして、想いが届いて恋人になれる何て誰が想像出来るの?
確かに何かの拍子に男の子と仲良くなって等はあるかも知れないけれど誰もが羨んで、沢山の人を魅了して、沢山の人を救って、沢山の人の目標になる人…
「ふふ…楽しかったなぁ…」
「校長先生、ありがとうございました。続きまして…」
いけない、完全に聞いて無かった…こうして考えてるだけでこの2年間の思い出が思い出されてくる。
知り合った日…ストリートで演奏してたら絡まれた私を救う為に女性の群れの中に飛び込んで来た悠馬くんの背中。
学校の部活紹介で、YouMaの曲を演奏した私との連弾をした悠馬くん。
愛央ちゃんへの生放送での「好きを舐めるな!!!」と大々的に放送した悠馬くん。
志保ちゃんの過去の問題で怪我をしながらも戦い抜いて、志保ちゃんの本音を引き出して地獄から救い出した悠馬くん。
「そして……」
早苗からの呼び出し、悠馬くんへのお願い、叶えてくれて早苗の通う学校での連弾。
新しい歌の提供を受けて私と早苗の連弾での演奏。
そして、私が勇気を振り絞っての告白を受けてくれた…そこからは3人で悠馬くんに振り回されたり振り回したりしながら沢山の思い出を作って行った。
「夏は、貸し切りの海岸とコテージへの旅行。」
そこで愛央が過去の因縁とケリを付けた…最初は悠馬くんの背中に隠れてる事しか出来なかったって聞いて居たのに、あんなに強くなった結果、全てにケリを付けて成長した。
「続きまして、卒業生代表答辞…」
明日香の挨拶だし聞かないとね。
「唯今、紹介に預かりました、高坂明日香です。本日は…」
ちょっと緊張してるかな…?
「この3年間、私達は多くの事を学びました…」
明日香の話が続いていく。
入学から今までの思い出を話しながら勧めて行ってるけど流石の明日香もどんどん涙声になってる。
「当時の三年生を抑え、私の様な未熟な人間が生徒会長へと就任して、まさか…男の子が入学してくださるとは思いもしませんでした…しかもそれが世間を騒がすYouMaさんだったのですから当時の私を初め生徒会のメンバーも教師も大混乱でした。」
そうだよねぇ〜…男子が入ってくる?!って話からYouMa?!って話になって…本当なのか?嘘なのか?って大騒ぎだった。
「実際に彼が入学して、入試の点数の大幅更新に始まり、部活紹介での連弾…」
やっぱり今でも思い出せるよね……
「そして彼の学園祭でのヤラカシの数々…それら全てが、私達にとって掛け替えの無い思い出です。」
一年目のヤラカシは凄かったもんね〜……二年目は私達へのプロポーズ位?だけどさ。
「そんな…そんな思い出が詰まる…清…蘭…高校からの…卒業…は……っ。」
あぁ…頑張って耐えてたんだろうけど、流石に……
「嫌だよぉ〜……こんなに楽しい…こんなに素敵な…学校…生…活…が……」
グスッ…ずずっ…えぐっ…えぐっ…と会場のあっちこっちから泣く声が響いてくる。
明日香も壇上で泣きながらも頑張ってる…けど、幼児化してる……
「終わる…何て…嫌だ…嫌なんです…でも!でも!私達は先に…先に!だからぁ…!在校生の皆さん!悠馬くんを!1年生達を!来年度の生徒達をよろしくお願いします!お見苦しい姿をお見せして申し訳ありませんでした!卒業生、代表…高坂…明日香っ!」
頭を下げて下がっていく…大丈夫だよ、明日香だけじゃ無いから私も皆もさっきから泣いてるもん。
皆が同じ気持ちだから…だから、皆も分かってるから…大丈夫。
…………………………………………………………
SIDE 明日香
「素敵な挨拶を、ありがとうございます。卒業生の気持ちを代弁したかの様な挨拶でした。とても立派でした。では…続きまして、在校生代表…逆月悠馬くん、お願いします。」
「はい。」
悠馬くんがゆっくりと歩いて行くその姿は相変わらず堂々としていて皆の視線を集めてて…それでも確りと前を見て歩いている姿を卒業生は目に焼付け様と追いかける。
「卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。先程の高坂元生徒会長の挨拶に凄く胸を打たれました。」
そんな事言われたら私が我慢出来ないよ…私は完全に顔を手で抑えながら必死に声を抑えながら涙を流す。
「思えば自分が入学した事で、沢山の混乱と迷惑をおかけしたと思います。自分の為の施設や、今まで使っていなかった施設を使える様したり、入試の時に思いましたけど、掃除まで行き届いていて、凄く嬉しく思ったのを今でも思い出します。この、二年で沢山の事がありました。自分も迷惑をかけている分、少しでもお返しをしたいと、イベントを引掻きまわしました。」
確かに……でも、お陰で楽しかった。色褪せる事が無い位楽しかった。
「二年前、皆さんに受け入れて貰った自分が、今度は皆さんを送り出すのは何処か不思議な感じがします。皆さんのお陰で自分は凄く楽しくて最高の二年間だったと思っています。」
こちらこそだよ!悠馬くんのお陰で私達がどれだけ楽しかったのか。
「とても頼りになる先輩方に負けない様に今度は自分が…自分達が今の一年生と来年度の新入生を引っ張って行ければと思っています。」
悠馬くんなら出来るよ。それに、愛央ちゃんも志保ちゃんも他の皆も、稲穂くん達みたいな悠馬くんを慕う子達も居るんだから……絶対に大丈夫。
「ですから、これからの清蘭高校は俺達が背負います。任せてください。安心してください。先輩達の作り上げた信頼を裏切る事も、壊してしまう事も俺達は絶対にしません……だから…」
そこで悠馬くんの演説が一度止まる…そして……
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SIDE 健司
「本当に!本当に!!!ありがとうございました!!!!」
悠馬さんが壇上で少しずれて全員に姿が見える様に立ち直して…マイクからも離れてるのに、距離が離れた俺達1年生にも聞こえる程の声で、先輩達にお礼を言った。
それを見た俺は自然と立ち上がって……俺だけじゃ無い、俺以外の男子全員が立ち上がった。
そして……
「俺達1年生からも!卒業生の皆様!!!本当に!この1年間!!!」
誰が決めた訳じゃ無い、男子全員で予定していた訳じゃ無い、俺達は自然と悠馬さんに続く様に立ち上がって…卒業する先輩達に向かって全員が声を揃えて…
「「「「ありがとうございましたっ!!!!」」」」
20人の男子が揃って卒業する先輩達に頭を下げながらお礼を言った。
「ちょっと…こんなぁ…」
「ずるいよぉ…」
「もう…こんなの…卑怯じゃん…」
と、あっちこっちから先輩達の声、泣き声が聞こえて来る。
「予定外の行動、失礼しました。どうしても伝えたかったのでお許しください。在校生代表!逆月悠馬!」
もう一度、頭を下げて悠馬さんは壇上から降りて行く。
俺達も、騒ぐ事も無く直ぐに座る。
悠馬さんが俺の方を見る…俺は確りと見つめ返して、ゆっくりと一つ頷く。
悠馬さんもそんな俺を見て頷いてくれた。
「びっくりしたよ…皆で決めてたの?」
菜月さんが皆を代表して俺にこそっと聞いてくる。
「いや、特に予定して無かったし、誰かがこうするって決めたって訳でも無いよ。」
「あぁ、何て言うかさ…こうするのが自然って言うか…」
「何も考えずに身体が動いてさ…」
「うん、自然とこうするのが当たり前みたいな感じ?」
陸と翼と水夏と、それぞれが俺の後に続いて菜月さんに答える。
「そっかっ。」
それだけ言って菜月さんは前を向くけど、その顔は何処か誇らしげで嬉しそうだった。
そうして、その後は
来年は悠馬さん達の卒業式か……在校生の挨拶は絶対に俺がやる!立候補してでも俺がやる!悠馬さんの門出を他の人に何て任せる訳には行かないんだから……それが、俺が悠馬さんに出来る事だと思うから…
そんな決意を俺はこの卒業式で持つのだった。
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