第3話 陸と唯華3

先輩に告白すると決めてから中々に時間も取れない、チャンスも無いで明日は卒業式になってしまった。

悠馬先輩としては、印象に残したいなら卒業式終わったら伝えれば良いだろ?と言ってたし星川先輩達もそれには、納得していてたからある意味では計画通り?なのかもしれないけど……


「もっと早く言いたかったかな…」


とは言え…俺の勇気が無いのが一番の問題か…


「陸!何をボケーっとしてんだ?」


「うっ…先輩…別にボケーっとしてる訳じゃ…」


「ふーん…どうせ伝えるチャンス無かったなぁ〜とか考えてたんだろ?」


「はぃ……」


「考え過ぎだと、言いたい所だけど…陸はそれじゃ納得しないわな〜。」


ケラケラと楽しそうに言う先輩に少しイラっとして睨んでしまう。


「おいおい……睨むなっての。別に馬鹿にしてるとかじゃねーよ。」


「だったら何なんですか……?」


不満気に言う俺を先輩は見ながら何を考えて居たのかを話し始める。


「嬉しいんだよ。」


「嬉しい……?」


「あぁ、二年前。俺はこの学校に進学した。でもそれは何かをやり遂げようとか何かを変えようとか思った訳じゃ無い。単純に楽しもうと思ったから何だ。」


「楽しむ……」


「YouMaの活動にしたってそう。他の奴がやってない事をやって一人になっても生きていける様にってだけなんだ。」


先輩は何処か遠くを見ながら俺にそんな事を言ってくる。


「つまりさ……全部、唯の我が儘なんだよ。そんな我が儘な俺を慕って沢山の人が応援してくれたり追い掛けてくれたり……それがとても嬉しい。」


「我が儘って……そんな事!!」


「我が儘なんだよ、おれほど我が儘な奴もそうそう居ないと思うぞ?でも、そんな俺を慕い付いて来てくれる奴等が居る。だから俺は見損なわれない様に頑張れる。陸……お前がこの一年の間、頑張って来たのは俺が知ってる、俺が認めてる。」


真っ直ぐに俺を見ながら先輩は言葉を紡ぐ。


「そんなお前の想いが届かない訳は無い!難しい事なんて考えてないでそのままの気持ちを想いを単純な言葉で良いんだから伝えろ。」


「はぃ……はいっ!」


「じゃ、俺は先に帰るぞ。双海先輩と帰りながら明日の予約いれておけ。じゃーなっ!」


そう言って先輩は背を向けて離れていく……そんな先輩の背中が見えなくなるまで俺は、感謝を込めて、頭を下げ続けていた。


…………………………………………………………

「ごめんー!陸くん!おまたせっ!」


「いえっ!お疲れ様でした、唯華先輩っ。」


最後のリハーサルが終わり先輩は待ち合わせ場所に走ってきてくれた。


「ふぅぅ…良しっ!帰ろっか!何処か寄って行く?お腹減ってない?」


「えっと…大丈夫ですけど、先輩は?」


「んぅ~……ちょっとお腹空いてるかなぁ~……」


「それなら軽くでも食べに行きましょうかっ。」


「うんっ!」


笑顔で言って自然と俺の隣に立って一緒に歩き出す。

何時の頃からか、この距離が自然になってて……でも、手を繋ぐまでは行かなくて……最後の一歩がどうしても踏み出せなかった。

でも……でも……改めて思う、俺はこの人を手放したくないって。


「陸くん?どうかしたの?」


「えっ?!あぁ……いや、何て言うか明日からは先輩とこうやって帰れないんだなーって思ってしまって……」


「そうだね……陸くんと仲良くなって半年以上だけど本当に楽しかったし本当に感謝してるよ。だからこそ、私も寂しいなぁ……」


「はい……あ!このお店にしましょうよ!」


「ここって……うんっ!決まりだね!」


そのお店は、俺と先輩が初めて一緒に出掛けて、一緒に初めて入ったお店だ。


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「あ!お二人さん!いらっしゃい!」


初めて入ってから何度も来ているから店員さんともすっかりと顔馴染になってる。

それもあって、来店して出勤して居るとこうやって気楽に声をかけて貰えて、構えないで居られるお店の一つだ。


「何時もので良いかな?二人共。」


「あ…はい。お願いします。」

「私もお願いします。」


今日は特に聞かれる事も無く何時ものを出してくれて、俺達はそれをお喋りしながら楽しんだ。


「はい。これもどうぞ。」


そう言って俺達の前にはこのお店の特製ケーキが置かれる。


「え?あの?頼んではいないんですけど……」


「一日だけ早いけど明日は来る余裕は無いだろうし今の内に卒業のお祝いっ。私の奢りだから気にせずに食べてね?」


「わぁぁ…ありがとうございますっ!」


「進学だったよね?今までみたいには来れなくなるよね?」


「んー…この街から離れる訳では無いので一概には言えませんけど頻度は下がるかも……でもでもっ!来なくなるって事は無いですよ!」


「ふふっ。そんなに必死にならなくてもっ。まぁ、今まで通り待ってるね。それと……卒業おめでとうっ。」


「ありがとうございますっ!」


店員さんの背中を見送りながら、先輩は少し涙ぐんでいて……そんな先輩を見ながら俺にも出されたケーキを一緒に楽しんだ。


その後、少しゆっくりと話しながら時間を潰して良い時間になったって事で、店を後にした俺達は夕暮れの街を歩く。

特に会話があったりする訳じゃ無いけど、お互いにこの時間を大切にしてる事は……何となくだけど分かった。

だから、俺は……お互いの家の分かれ道に辿り着いたのを見計らって一つの事を先輩に伝えた。


「付き合ってくれてありがとうねっ。明日は、遂に卒業かぁ〜……嫌だなって本気で思う日が来るなんて思って無かった。」


「あはは……今の清蘭はそうなるでしょうねぇ、男子も増えて、悠馬先輩が居て、清蘭の生徒ってだけで一種のステータスになってますもんね。」


「ねっ。そりゃ勿論だけど卒業生ってだけでかなりの地位とか約束されてる様な物だし、プライベートのYouMaを知ってるって事で人気者にもなりやすいしね。」


「確かに、それもありそうですよね……って事は、去年の卒業生とか?」


「先輩に聞いたけど1年目だから凄かったらしいよ?紹介してとか会いたい!!とか流石にげんなりしてたねぇ……」


「あ、あはは……そりゃそうだ……えっと、そのですね?」


「うん?どうしたの?」


俺の雰囲気が変わった事に先輩は驚いた顔をしながらも雰囲気を感じ取って姿勢を正した。


「明日、卒業式が終わった後に時間取れませんか?」


「終わった後に…?」


「はいっ。先輩に伝えたい事があります。だから出来れば時間を取って貰いたいんです。」


「え、えっとぉ///はぃ…っ///絶対に時間を取ります……///」


何を考えたのか先輩は一気に顔を真っ赤にしながらも俺の提案を受け入れてくれた。

そして、その日はお互いにそのまま別れてお互いに岐路に着いた。

全ては明日……明日だ。頑張らないとな!!!


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SIDE 唯華


「はいっ。先輩に伝えたい事があります。だから出来れば時間を取って貰いたいんです。」って言われた…言われたぁ……これって、そう言う事だよね……?


「期待して良いんだよね…?陸くんっ。」


本当なら私から言わないと駄目なんだろうけど……でも…


「思ってる通りなら、嬉しいなぁ…っ///」


自分でも情けないとは思うけど……男の子が頑張ろうとしてくれてるんだから逃げないで待たないとだよねっ!


「明日、楽しみにしてるから…ね?」


カーテンを開けて窓から外を眺める…そこには珍しく綺麗な星が見えた…私はその星を眺めながら高校生としての最後の夜を過ごす。


「陸くんも見てるかな……?なんてっ。」


そんな事を何となく思ったのだった。


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SIDE 陸


「そうか…時間取ってくれるって言ってくれたなら一先ずは良かったな。」


「はいっ!でも、そのお陰で今から緊張しまくってます…彩花にも陸兄おかしくなった?とか言われましたもん。」


電話の向こう側でゲラゲラと悠馬先輩は笑っている。

アドバイスと相談をして居ただけに何も報告しないのはどうなんだろう?と思った俺は夜に先輩に電話をして報告をしていた。


「何にしても、良かったじゃないか、後は簡単にでも良いからしっかりと自分の気持ちを伝えてやれ。恰好を付ける必要なんて無いんだからな。」


「はい…それは分かってます。でも…少しは格好つけたいっす……」


「ぐふっ……気持ちは分かるけどさぁ。」


「笑わなくても良いじゃ無いですか!!!俺だって好きな人に位は格好良いって思われたいんですよ!!!」


ムキになって反論する俺がツボにはまったのか、さっきよりも勢い良く笑われてる。


「はぁぁぁぁ…笑ったわぁ…そのままで良い。」


「え?どう言う事ですか?」


ムスッとした声と感じを隠さずに俺は先輩に聞く。


「双海先輩は、今のそのままの陸が好きなんだって俺は思う。だからそのままのお前の言葉で気持ちを伝えれば良いんだ。俺達から見ても二人は思い合ってるんだからな。」


「はい!っと…遅くにすいませんでした。」


「構わないさ。俺も大切な後輩が頑張ろうとしてるんだから応援したいしな。だから、明日に備えてもう寝ろ。明日は俺も清華の卒業だし俺にとっても大切な日だからな。」


「そうですね。お互いに寝不足になる訳には行かないですしね!寝ましょう!」


「あぁ、おやすみ。」


「おやすみなさい!」そう言って俺は電話を終わらせてそのまま窓際まで歩いてカーテンを開ける。


「珍しいな…星が綺麗に見える。」


先輩も見てるかな?今、俺と同じ様にこの星を……


「何て考えすぎか…てか、乙女か俺!!」


何となく恥ずかしなった俺は直ぐにカーテンを閉めてベッドに潜り込んだのだった。


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