第2話 友達になりたくて

 加茂ミリは、午後の授業が始まっても、小さな身体を震わせて泣いていた。

 同じバドミントン部の女子からの暴力止めた由比ヶ浜葵は、一抹の責任を感じてただ隣に座っていた。

 加茂は小さな手で顔を覆い、その手の間から涙が溢れている。

 ふと、今まで彼女を含め、女子の隣に大人しく座ってる事なんてなかったと思った。

 時間があればラケットを振り、たまにカフェに入ってもスマホで予定の確認。

 今まで、彼女達と向き合った時間がなかった気がした。

 泣いている女子を放っておいて自主練をする気にもなれず、ただ、時間が過ぎていった。

 「さっ、さっきは、助けてくれてありがとうございます。」

 可愛らしい顔が台無しな泣き腫らした顔で、葵にお礼を伝える。

 「少しは落ち着いたか?泣き腫らして顔がぐちゃぐちゃだぞ。」

 ブレザーからタオルハンカチをだし、加茂に渡した。

 「文化祭の買い出しに誘われてついて行っただけなのに、なんだか誤解されてしまって。」

 渡したタオルハンカチで目元を押さえていた。

 「木村の一方的な勘違いだと思うが、木村の彼氏が何を考えていたのかはわからないからな。」

 「木村さんの彼氏に、買い出しの後にしつこくカフェに行こうって誘われてたんです。でも、学校活動の一環の買い出しだから帰ろって言ったんですが、しつこくてお茶してしまった私もいけないんです。」

 木村の彼氏が原因である事は間違いない。

 ワンチャン加茂とお茶して、何か考えがあったと推測できる。

 「それを誰かに見られたのか?」

 「多分、それで木村さんに呼ばれたみたいです。」

 「あんまり男女で2人きりになるもんじゃないなぁ。特に彼女がいる男子とは。」

 「由比ヶ浜さんには彼女いるんですか?」

 「さっき振られた。心配するな。」

 加茂は驚いた顔で見つめてきた。

 「由比ヶ浜さんみたいに優しい人を、振る方がいるんですね。」

 「毎回振られて終わってるよ。俺みたいな部活馬鹿は、理解してもらえないらしい。」

 ラケットバッグからラケットとシャトルを取り出し、サーブの構えを取る。

 乾いた音で打ったシャトルは、放物線を描いて近くのバスケットゴールに入った。

 手に取った4つのシャトルを、全部バスケットゴールに入れた。

 「すごい、なんで入るの?全部入った。」

 「この距離なら、何回やっても外さないよ。やってみる?」

 加茂は立ち上がると、スカートの皺を直し、ラケットとシャトルを受け取った。

 見よう見まねでシャトルをラケットで打とうとするが、全部空振りしてしまう。

 「当たらない。こんなに当てるのも難しいの?」

 見てわかる程、加茂はバドミントンの経験がない事がわかる。

 「遊びでもバドミントン経験してない事がわかるよ。体育でもバドミントンはやらなかったか。」

 「テニスなら家族でするけど、バドミントンはやった事ない。どうしたらコントロール良く打てるのかわからない。」

 「毎日練習してるから、意識した事ないな。」

 加茂からラケットを受け取ると、シャトルを真上に打ち、落ちてきたところを全力でスマッシュする。

 乾いた音とともに、猛スピードで打ったシャトルは、体育館に転がっていたバスケットボールに当たった。

 「さっきバスケ部の女子と別れたから、ちょっとね。」

 「由比ヶ浜さん優しいのに、なんで彼女さんに振られたの?」

 「バドミントンばかりで、今までちゃんと彼女と向き合った事なかったからだな。自業自得。」

 加茂は借りたタオルハンカチを綺麗に畳んで差し出した。

 「泣いている女の子に寄り添ってくれる由比ヶ浜さんは優しいよ。ありがとう。」

 「もう大丈夫そうか?」

 加茂は小さく頷いた。

 「よかった。俺は体育館でもう少し自主練したら、6限は授業にでるよ。」

 「あっ、あのうぅ。」

 加茂は、ギュッとスカートを掴んで、由比ヶ浜を見つめいる。

 「私と友達になってください。入学してから友達いないんです。女子からは容姿と帰国子女が気に入らないのか仲良くしてもらえないし、男子からは付き合おうとしか言われなくて、学校生活が窮屈なんです。」

 日本人離れした目鼻立ちと、髪の色、そして低身長な加茂は、確かに男子から一目置かれて、その愛らしい容姿から人気があるのは知っていた。

 しかし、本人は、男子からのアプローチが女子の嫉妬を買って、今日みたいな事件が起きているのが推測できた。

 「加茂のために何が出来るかわからないけど、俺は頼まれると断れない性格なんだ。俺でよければ、友達になるのは問題ないよ。」

 「フィーレン ダンク」

 何語かわからないが、感謝の気持ちを言ったようで、右手を両手で掴んでブンブンと握手をする。

 左手てでラケットを持っていたが、あまりの勢いに落としそうになった。

 季節は文化祭の秋。

 今日まで孤独を感じていた加茂の気持ちがよくわかる握手だった。

 

 

 

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恋愛不器用だけど青春してます @silvia2023

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