第3話 適材適所こそ人生最大の生産性の効率化

 陽三曰く「弟とは毎日ほぼ同じ食事をし、ほぼ同量の日光を浴びて育った」と。日当たりの良い場所で育った子とそうでない子には歴然とした差があって当然だと思っているそうだ。生まれつき肌が色黒い陽三こそは効率よく日光を吸収でき、青白い顔をしている弟は劣っているはずだと不憫に思ったりもしていたそうなのだが、成長するにしたがって弟の持つ能力は素晴らしいと社会が評価するようになった。陽三はそばで見ていて悔しく思っていたが個性を大事にする親、父母ともに、陽三のはらわたの煮えくり返るような嫉妬心には気が付かない。

 

 ある日陽三は、中学が企画する職業選択について親子面談に参加した。陽三は、葉脈を掘り出す作業を職業につなげるアドバイスがもらえるものだと思って参加していた。実際は親と教師の意見交換がバトル状態になり、興奮した大人は何を言いたいのか中学生にわかりやすく伝えることができなかった。

 最終的に「適材適所こそ人生最大の生産性の効率化だ」と陽三の父の声だけが陽三に伝わった。陽三は社会が個人の適所を見出し、そこに配置されると認識した。

 僕はとても興深くその話を聞いた。大人のバトルに少しでも陽三が興味をもっていたらと思うと、残念でたまらない。

ちなみに親子面談に僕も親と一緒に参加した。将来精神科医か公認心理師を目指している、そのため、ドイツ、アメリカ、ノルウェー、フィンランドの研究者が書いた論文を毎日読んでいると伝えた。親も教師も「それで良い」以外何も言わなかった。

陽三はその後、弟に将来について話をしたらしい。職業の話をしたかったそうだが「将来の話」と伝えてしまったそうだ。弟は、兄、陽三の期待にそうべく将来の話を始めた、弟の将来像は悲劇的だったそうだ。人類は戦争をやめることはなく、いきなりの暴力で積み上げてきたものは破壊される。人類は知性に訴える数よりも暴力に訴えるほうが圧倒的に多い。世界の人口が増えるにつれ知性的な人が住む社会は小さくなり、そのうち閉鎖されていくであろうと。妬ましい能力をもっているくせに弟の抱えている暗渠の規模は大きく広く深い。


 陽三はその悲劇的な発想を弟から聞いて以降、弟の将来が闇であることを知り超嬉しかったと言った。

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