第46話 ソラの伝えたいこと


「ソラの、秘密?」

「うん。あ……でも、ぜったいの秘密ってほど大げさなものじゃ、ないんだけど……」


 もにょもにょするソラ。彼らしい。

 しばらく胸元のルルを撫でていたソラは、意を決して告げた。


「実はボク……魔物だけじゃなくて、他の動物たちとか、人間以外の言葉がなんとなくわかるんだ……!」

「え……あ、うん」


 一瞬、ユウキは反応に迷った。指先をこめかみに当てて考える仕草をしながら、首を傾げる。


「えと。知ってる、よ?」

「え!?」

「いやその、さっきからルルちゃんと親しげに話してるのを見てるし。レンの友達のスライム君とも話ができているみたいだったし。他の動物たちと意思疎通ができるのは、チロロからも聞いてるよ」

「う、うーん。ユウキはもう知ってた……あれ? あれ?」


 ユウキとともに首を傾げるソラ。院長先生としても、これにはどう言葉を返すべきかわからない。

 まさか本人的には内緒にしているつもりだったとは、驚いた。

 これは、結構なぼんやりさんなのではとユウキは訝しむ。


 深いため息をつくソラ。彼としては、勇気をこめた告白だったのだろう。なんだか気の毒になってきた。

 ユウキが「ごめん」と謝ると、ソラは力なく首を横に振った。改めて語り出す。


「ボク、あんまり自分のことを話すのが得意じゃないから……家族院の皆にも、ボクが魔物や動物たちと話せるんだって、直接、言ったことはないんだ。……たぶん」

「レンもヒナタも、君が話せることを疑ってないみたいだけど……」

「うう。ボク、知らないうちに喋ってたのかなあ……それとも、喋ってたことも忘れてた……?」


 落ち込んでいる。気の毒になって、ユウキはソラの頭を撫でた。スライムのルルも同じように慰めている。

 ソラの悩んでいることを、噛み砕いてみる。


「つまりソラは、自分が他の家族と違う力を持っていることを、あまり表に出したくなかった――ってこと? だから自分から言うことはなかったけど、気がついたら能力を使ってて、自然と他の子たちにも伝わっていたと。それが、ショックだった?」

「うん……うん、そう。そうなんだ、ユウキ」


 ソラは顔を上げた。


「やっぱりボクの思った通りだ。ユウキは、ボクのことわかってくれる」

「他の皆もきっと同じだよ。僕が特別なわけじゃないさ」

「そうだけど……そうじゃないっていうか……。ユウキ、ボクと同じ力を持ってるよね? それが嬉しかったというか……親近感というか……そう」


 自分の中でひとつの結論にたどり着いた表情で、銀髪少年は言う。


「家族の中でだったら、隠さなきゃいけないって思い込んでたんだ。だからユウキがいてくれて、初めて隠さなくてもいいんだって、思えた。うん……だから、ボクは嬉しいんだ」


 ユウキはうなずきながら聞いていた。


 正直に言うと、ソラの言うことは半分ほどしか理解できない。同じ力を持っているから親近感が持てた――というのはよくわかる。ただ、――というのは、ソラだけの、ソラが自分でつかんだ『答え』だろう。


 ユウキは不思議な気持ちになった。

 レンは、自分なりの哲学――家族の守り方について信念を持っている。

 ソラもまた、タイプは違うけれどソラだけの考え方を持っている。

 きっと、彼らから見ればユウキにもユウキだけの考え方があるのだろう。自分で気づかないだけで。

 誰かと接するのって、仲良くなるのって、本当に面白いとユウキは思った。


 ソラは安心したようにユウキを見つめている。院長として、微笑みで応えた。


「ソラ。魔物や動物と会話できるって素敵な能力だと思うよ。僕もこの力で、チロロやルルたちと話ができるのはすごく嬉しい」

「うん。うん」

「この力を皆にどう伝えるかは、ソラが決めていいと思うよ。伝えたとしても、これまでどおり言わなかったとしても、家族院の皆はソラを嫌いになったりしない。そこは、安心していいんじゃないかな?」

「ありがとう。ユウキ。……やっぱりユウキは院長先生にぴったりだね。ボクのこんな話、ちゃんと聞いてくれるんだもの。……あ、もしかしてユウキって、実はもっと年上だったり……」

「皆と同じ10歳です」

「今すごく想像が膨らんだのにー」


 打ち解けた表情でソラが言う。ふたりは笑い合った。


「あ、もうひとつ伝えたいことがあったんだ」


 ソラは胸元のルルを撫でる。


「ボク、癒やしの魔法が得意なんだ」

「へえ――って、ん? 魔法?」

「うん。……うん?」


 お互い、きょとんとした顔をつきあわせた。

 

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