第42話 やっぱり似た者同士


「ユウキの勝ちーっ!」


 ヒナタが歓声を上げながら抱きついてくる。


「すごいすごい! ユウキ、最後のどうやったの!? 水の上、びゅーって走ってたよね。びゅーって!」


 汗だくで息を整えながら、ユウキは苦笑した。


「僕の中の転生者さんたちが、力を貸してくれたんだ。『そのまま飛び込め』って」

「すごーい! あんな魔法を使えるなんて!」


 喜びのあまり、ヒナタはその場でクルクルと踊り始める。ツインテールの髪が、楽しげに回る。

 ソラがやってきた。


「お疲れさま、ユウキ。すごかったよ」

「ありがとう」

「最後の魔法、サキが見たら倒れちゃってたかもね」

「あはは。あ、でもどうしよう。魔法は大人にならないと使っちゃダメってサキが言ってたような」

「あー……うん。でも悪いことに使ったわけじゃないから、きっと大丈夫、だよ。うん、きっと」


 予想外の展開にソラも興奮しているのか、いつもより饒舌だった。


 ユウキは、レンを見る。

 樹に寄りかかったやんちゃ少年に向かって、ユウキは笑顔で親指を立てた。「勝ったよ」と口にすると、レンはふいと顔を逸らす。ただ、口元は笑っていた。


 それからユウキは、競争相手のスライムのもとに向かう。子スライムはユウキたちに背を向け、池の中に帰ろうとしているところだった。


「待って、スライム君」


 呼び止める。振り返った彼のもとまで駆け寄り、しゃがんだ。


「スライム君も、ありがとう。その……とても楽しかったよ」

「みょ、みょん(ふん。今日のところはこれでカンベンしてあげる)」

「ホント、そっくりだなあ」


 苦笑した。池のほとりまで来ていたお父さんスライムにも小さく頭を下げる。


「かけっこさせてもらって、ありがとうございました」

「みょーんみょーん、みょーん(こちらこそ、お騒がせした。まさかこの聖地に、君のような実力者がやってきたとは驚きだ)」

「いえ、そんな」

「みょぉーん(またうちの子と遊んでいただけるとありがたい)」

「はい。ぜひ。――あ、でもその前に」


 ユウキは子スライムに視線を戻す。黒い目が不思議そうに見返してきた。


「スライム君。おいで」

「みょ?」

「一緒にレンに謝りに行こう」


 手のひらを器のようにして差し出す。しばらくためらってから、子スライムはぴょんとユウキの手の上に乗った。ひんやりと軟らかい身体を抱きしめる。


「みょみょ(きみに言われたからしかたなく、だよ)」

「はいはい」


 スライムを胸に抱いたまま、レンのところへ向かった。さっきまで口元に笑みを浮かべていたやんちゃ少年は、スライムの姿を見ると途端に複雑な表情に変わる。


「なんでそいつを連れてきてんだよ」

「スライム君、レンに謝りたいんだって」

「ああ?」

「ほら、スライム君」


 ユウキが促すと、子スライムは手の上でべたーっと平べったくなった。そしてごくごく小さな声で「みょ……」と言った。


「ごめんなさい、だって」

「いやなに言ってるかわかんねえよ!」

「言葉は通じなくても、伝えたいことはわかるんじゃない?」


 ユウキが言うと、レンは唇を噛んだ。

 もふもふ家族院の院長として、告げる。


「スライム君には、きっと伝わっているよ。レンの気持ち。だからこうして、君に謝りたいと言ってくれたんだ。レース前からだよ。それは、レンも認めてあげようよ」

「……」

「それに君たち、似た者同士なんだから、ホントはもっと仲良くできるんじゃない?」

「誰が似た者同士だ!」

「みょみょん!」


 ユウキの言葉に、ひとりと一匹は同時に反応した。そして直後にまた声を揃えて、「真似すんな!」とお互いに向けて言う。


 スライムがユウキの手からジャンプし、レンの頭の上に乗る。そのままポスンポスンと抗議のジャンプ踏みつけを繰り返した。レンも負けじと、スライムを捕まえるため両手を振り回す。


 ユウキは堪えきれずに笑った。この光景、じゃれ合っているようにしか見えない。

 上機嫌のヒナタが、ニヤニヤ笑いを貼り付けて言った。


「ユウキの言うとおり、本当に仲良しさんだねー」

「ちがわい!」「みょみょん!」


 抗議の声が、また重なった。


 お父さんスライムが呼んでいる。子スライムはレンの頭から、今度はユウキの肩上に飛び乗った。ユウキは言った。


「これで喧嘩はおしまい。これからは仲良くしようね」

「みょみょん!(またあそべ!)」

「うん。また遊ぼう」


 スライムは地面に降りた。どことなく機嫌良さそうに跳びはねながら家族の元へ向かう。池の中へ消えていくスライム一家を、ユウキやヒナタが手を振って見送った。

 レンはべーっと舌を出し、介抱するソラを呆れさせていた。


 こうして、お騒がせかけっこ勝負は幕を閉じたのである。


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