第17話 前向き勉強、院長先生


 それからユウキたちは、皆で力を合わせて洗濯物を取り込み、片付けた。

 もふもふ家族院にはすでに6人の少年少女がいるということで、洗濯物の量もそれなりに多い。

 家族院がある聖域内は、いつも心地のよい気候らしい。洗濯物が気持ちよく乾くのはいいことだとユウキは思った。


「ユウキ、畳むのうまいね」


 ふと、ヒナタが言う。アオイたちの見よう見まねで、あまり深く考えずに手を動かしていたユウキは、「そうなのかな?」と応えた。自分ではよくわからない。

 アオイもうなずく。


「ちょっと教えただけなのにー、すぐにできるようになるのはすごいですよぉ。ユウキちゃん」

「それじゃあ、アオイたちの教え方が上手だからだね!」

「あっはっは。ユウキらしーい」


 ヒナタが笑う。

 一方のサキはなにやらむつかしい顔をしていた。


「いや……なかなか問題は深いかもしれないよ。ユウキ君は異世界の住人だ。共通点は多いとはいえ、ウチらの衣服の構造を瞬時に把握し、分別し、適切に素早く折りたたむ技術など、特筆すべきことだ。これはきっと、いや絶対に、ユウキ君の秘められた能力のおかげに違いない。なので早急に調査を――」

「そういうのは、サキが上手に畳めるようになってから言いなよー」


 ヒナタが呆れる。

 サキの前には、数着の上着が並べられていた。まるで今脱ぎ捨てたような、「ぐちゃあ」という擬音がぴったりくる有様である。

 寝癖少女は表情を引き締めた。


「人類と人類の間には得意不得意という厳然とした断絶がある」

「サキはやっぱり難しい言葉を知ってるよね。すごいや」


 ユウキが褒めると、サキはいそいそと畳む作業に戻った。さっきよりもだいぶ丁寧な手つきである。


「そういや、サキが洗濯物の取り込みを手伝うなんて、珍しいね」


 ふと、ヒナタが言った。皆の視線が集まる。

 サキは壁の方を見て言った。


「そうだったかの?」

「もしかして、またなにかやらかしたの?」

「そーんなわけはないじゃないか。ははは。ユウキ君が作業を手伝うのなら、ウチも一緒に作業すべきと思っただけだよ。はははーっ!」


 視線を逸らしたまま言う。

 ユウキは気にせず、洗濯物を畳む作業を続けた。楽しかった。


 ヒナタが肘でユウキをつつく。


「覚えておいた方がいいよ。サキ、すごく頭がいいけど、こういうときはなにか隠してるんだ」

「そうなの?」

「うん。まあ、わたしは『しょーがないなあ』って思うくらいだけど、ユウキは家族院の院長先生だから、ちゃんと覚えておいた方がいいかもね」

「わかった。ありがとう」


 サキに視線を向ける。


「ねえサキ。隠し事はよくないと思うな。僕」

「ファッ!?」

「なにか大変なことがあるなら、皆でなんとかしようよ」

「ファッファッ!?」

「……ユウキ。すごいね。さすが院長先生」


 動揺するサキに、大きな目を丸くするヒナタ。

 そんな家族の様子を見て、アオイはコロコロと笑っていた。


 結局、この場では隠し事がなんなのか、わからずじまいだった。


 ――洗濯物の取り込みを終え、再びキッチンに戻る。


「よし! 僕、頑張るよ。アオイ!」


 気合いを入れてキッチン前に立ったはいいものの、ユウキはすぐに「うーん」と唸った。

 ネットやテレビなどでキッチンの様子は知っていたが、実物を前にすると圧倒される。色々な形をした調理器具が、綺麗に整頓されて並べられている。必要なものが必要なときに手に取れるよう、棚や壁収納に工夫が施されている様は、ユウキにとって一種の芸術であった。


 このすごく綺麗な空間に、僕が手を入れるのか……!


「よ、よろしくお願いします」

「ユウキちゃん、そんなに緊張しなくてもいいんだよー?」


 隣でアオイが首を傾げている。ユウキは言った。


「実際キッチンの前に立ったら、何か『すごいな』って思って。こんなに綺麗で、整っているんだね」

「ありがとうー。ユウキちゃん、本当に異世界から来た人なんだねー」


 アオイは調理器具のひとつに、そっと手を触れた。


「道具は大切だよー。家族院のみんなをお腹いっぱいにするために、このコたちの力が絶対に必要だからー。だからアオイはね、ありがとうの意味も込めて、このコたちを大事にしているの」

「おお」

「家事をするときに一番大事なのは、その気持ちかも……なんちゃってー」


 ちょっと恥ずかしそうにアオイは舌を出して笑った。

 ぜんぜん恥ずかしくない、むしろ素晴らしいことだ――という気持ちを込めて、ユウキは敬礼した。


「よろしくお願いします。アオイ先生!」

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る