第13話 綺麗で不思議な室内


 もふもふ家族院の玄関扉に手をかける。ゆっくりと開けた。


 途端、ふわりと柔らかい匂いが漂ってくる。


 外観から大きな建物だなと思っていたが、エントランスはユウキが思っていたよりもずっと広々としていた。

 天井は吹き抜けになっているのか高く、2階部分にある丸い窓から外光が温かく差し込んでいる。


 エントランスに隣接してリビングスペースがあり、快適そうなソファや椅子がいくつか並んでいた。病院では見たことがないような、木製の大きな丸テーブルもある。鉢植えの観葉植物が適度に配置され、見ているだけで心が落ち着くようだ。


 その奥にはダイニングエリアだろうか。長テーブルと椅子の向こうに、ちらりとキッチンの様子も見えた。


 エントランスの奥に2階へと上がる階段がある。ユウキのような素人が写真を撮っても、きっと誰もが「素敵」と言ってくれそうなほど、趣のある木製階段だ。映画に出てきそうである。


 おそらく天使様が、家族院の皆のために造ってくれたものだろう。

 今まで映像や本でしか見たことがなかった光景を、ユウキは自分の目で捉えている。

 すごい、本当にすごいや――とユウキは感動に震えながらつぶやいた。


 柔らかな絨毯の上を歩いたとき、かさりと、靴がなにかを踏んだ。

 綺麗に掃き清められてた床に、何枚か紙が落ちていた。文字がびっしり書いてある。


「あー、サキ。また資料を散らかしてる」

「なはははは」


 ヒナタの苦言に、サキが笑って誤魔化す。

 彼女らと一緒に紙を拾って片付ける。ヒナタによると、これはサキが研究用にメモしたものだという。リビングで書き物に集中する寝癖少女は、よくこうして資料をぶちまけては家族に怒られているらしい。


 ふたりの少女のやり取りを微笑みながら聞いていたユウキは、ふと手元の紙に視線を落とした。異世界人であるサキが走り書きした文章。さすがに読めないよな――と思っていると、不思議なことに頭の中で文章がスラスラと翻訳されていく。

 初めて見る文字なのに、『読める』。本当に驚きの感覚だった。

 これは転生者の能力なのだろうか。


「ユウキ? どうしたの。?」

「え?」

「いま、ユウキの目がちょっとだけチカチカしてた」


 言われて目をこする。自分では確認できないが、どうやら文章を読んでいるとき瞳の色に変化が起きたらしい。

 ユウキは何度かまばたきをして、「大丈夫。なんともないよ」と答えた。この世界の文字が読めるのなら、とても素晴らしいことだ。多少、見た目が変わることなど気にする必要はないだろう、とユウキは思った。あっさりと気持ちを切り替える。


 例によってじーっと瞳を観察してくるサキに、拾った紙束を渡す。

 ユウキは家族院の中を見渡した。


「とても綺麗な家だね」

「でしょ? すごく快適なの。皆で一緒に暮らしてるから、お掃除とか家のこととかは分担してやってるんだよ。……サキとかはよくサボりがちだけど」

「なはははははは!」


 また誤魔化す。ユウキも笑った。


 ――僕、家事のことは全然わからないや。ヒナタや皆に教えてもらって、早くできるようになろう。


 3人でリビングへ向かう。

 そのとき、ひとりユウキの足が止まる。


 リビングスペースにはふかふかソファーや椅子、テーブルの他にも、大きな本棚や暖炉がある。

 その、暖炉の上に、なにやら奇妙なものを見つけたのだ。


 丸い。真っ白だ。

 毛玉としか言いようがないほどのもふもふ。ユウキの小さな両手にすっぽりと収まるくらいのサイズ感。


 最初は風変わりな置物かと思った。

 しかし、じっと見つめていると――。


 コロコロ……。

 コロコロ……。


「わあ」


 ユウキの目の前で、右へコロコロ、左へコロコロと、ひとりでに動いているのだ。

 吸い寄せられるように暖炉へ近づくユウキ。

 間近でこの不思議な『もふもふ』を観察する。


「わあ……え?」


 もふもふと、

 

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