第12話 ユウキの決意


 サキが、まるで研究者のように目を細めた。


「見た目はぽわぽわ少年だけど」

「ぽわぽわ少年……」

「天使様から直々に目を掛けられた存在が、ただの人の良い男の子であるはずがないさね。なにかヒミツがあるのだろう? ほらほら、どうなのかね。ほらほらほら」


 サキが迫る。

 まだ難しい説明が続いていると思っているのか、ヒナタは鼻歌を歌いながら踊り続けていた。フォローは期待できそうにない。


 ユウキは天使マリアとの会話を思い出した。

 ミックス転生について、ユウキの中に眠る魂に害はないと彼女は言った。時が来れば、ユウキの助けになってくれるだろうとも。その力を正しく使うことが、むしろ善き転生者たちの素晴らしさを証明することになる、とも言っていた。

 口外するな、とは言われていない。

 それに、神様によって問答無用で押し込められた転生者たちを、他の人たちが知らないのは可哀想だとユウキは思った。


「実はね、僕の心の中には、他にもたくさんの転生者さんが眠っているんだ。すごく善い人たちなんだって」

「……詳細」

「や、僕もそんなに詳しくはないんだけど」

「詳細ッ!」


 力強いサキの声に、ユウキだけでなくヒナタもびっくりして振り返る。

 寝癖少女の圧に押されるまま、ユウキは天使マリアから聞いていた話を語った。

 少女ふたりの視線が、ユウキの胸元に集中する。


「すごいね。ユウキの中にはたくさんの大人?……のひとがいるんだ」

「いや。天使様のお話であれば、もしかしたらユウキ君の中に眠るのは歴代各所の英雄英傑の類かもしれないぞ」


 ユウキは控えめに「あの、そんなに見られても困るよ……」とつぶやいた。


 ふと、サキが言う。純粋に疑問に思った、という感じで、さらりと。


「だが転生者ということは、一度死んじゃってるのだろう。死んじゃったら天国に行くのではないのかい? どうしてユウキ君はここにいるんだ?」

「こら、サキ」


 ヒナタがたしなめる。サキは自分の発言をいまいち理解していないのか、首を傾げていた。


 ユウキは苦笑した。元々、多少のことで彼のメンタルは壊れない。ありのままの気持ちをユウキは語った。


「僕がここにいるのは、天使様が僕の願いを叶えてくれたからなんだ。病院にいるとき、いろんな人に迷惑をかけるだけだったから、生まれ変わったら誰かの役に立てるようにって。だから今、もふもふ家族院の院長先生の役目をもらえて、すごく頑張ろうと思ってる。頑張りたいと思ってる。僕の中にいる他の転生者さんたちのためにも」


 ユウキは握りこぶしを作った。


「生まれ変われたのは、ここに来られたのは、僕にとってチャンスなんだ」

「おお……」


 力強いユウキの言葉に、サキもヒナタも目を見開いた。

 赤髪ツインテールの少女が、ユウキの肩に手を置く。


「応援するよ、ユウキ!」

「ありがとう、ヒナタ」

「んっふっふっふ」


 研究者気質の少女は、なにやら不気味な笑いを浮かべた。


「院長として気合い十分な、無限の力をうかがわせる転生者……子ども院長……ふっふっふ! 面白い! 面白いよコレは!」

「もう、サキったら。いっつもそんなことを言う」


 呆れるヒナタと、再び苦笑するユウキ。

 するとサキはスッと表情を改めた。


「ユウキ君。ウチはこんな人間だけど、君を応援したい気持ちはホンモノだよ。これでも魔法関係の知識には自信がある。君の力について不安があれば、相談に乗れると思う。さっきはからかって悪かった」

「ありがとう、サキ。今のサキの方が、院長先生っぽいね。見習わないと」

「なにを言うかね。ウチをこれだけ熱くさせるだけでも、ユウキ君は十分に院長先生の素質があるさ」


 サキってば飽きっぽくて暴走しがちだからねえ、とヒナタが付け加える。サキがちょっとだけ傷ついた表情をしたのがおかしかった。


 ユウキとサキは力強く握手する。思ったよりも小さく細い手だとユウキは思った。仲間同士仲良くするのが嬉しいのか、ヒナタは笑顔で何度もうなずいていた。


「……ところでユウキ君」

「なに?」

「もしよければ後学のため、身体を調べさせてもらえないだろうか。もう隅から隅までじっくりと……これも院長先生の勤め――ということにしてくれれば他の皆にも言い訳がしやすいと思うのだが……って、ヒナタ。痛い。叩かないでくれ」

「いろいろ台無しだよサキ」


 ヒナタとはまた違った、すごく面白い子だなとユウキは思った。彼はふたりが大好きになっていた。


 ――こんな子たちと一緒に暮らせるなんて、僕は幸せ者だ。


 ヒナタが言った。


「さあ、わたしたちの家に入ろう」


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