第23話 ホラー

 城先生が接ぎ木した桜の枝は少しずつ大きくなっている。巻かれていたテープは枝の成長で破れ、ボロボロになって来たので思い切って外したが、二本の枝はちゃんと癒合しているようで、1ヶ月後には若い葉っぱが出て来た。やはり古い切り株は生きていたのだ。


「なんだか、枝から木に成長して来たねー」


 時々見に来る三咲も嬉しそうだ。そして、その接ぎ木された桜の周りには、外構が整備されつつあった。リフォームでは喫茶さくらをクルージングボートに見立てる予定なので、外構部は船着き場のイメージだそうだ。桜の切り株の周囲にはウッドデッキが張られ、国道との間にはラティスフェンスが立てられた。ラティスの内側には救命浮輪、ウッドデッキの端っこには係船柱を模したベンチまで置かれている。今後、夏に向けてパラソルとテーブルセットを置く予定だと言う。


 やっぱりカンナさんの思惑通りのイメージだ…。絵梨は周囲を見回す。別に嫌なイメージではない。自然派店舗には賛成だし、海沿いの店に相応しいと思うのだが、これじゃまるで『喫茶さくら丸』になりそうだ。桜が大きくなったらどうするのだろう。と言っても、ちゃんと木らしくなるには何年かかるのか見当もつかない。係船柱に座って絵梨がぼやいた。


「写真撮って城先生に報告したいんだけどね、先生、この頃夜にも現れないし」

「うーん。学校でも見ないよねー。生物の授業がないから判らないだけなのかな」

「何曜日に授業あるのか、他の先生に聞いてみようか」

「そうね、じゃあ、あたしが先に美術部の先輩に聞いてみる」


+++


 と言う訳で、夏休みを目前に控えたある日、三咲は先輩を捉まえた。


「あのー、先輩、生物の授業ってありますか?」

「うん、あるよ、生物基礎」

「あのう、城先生に習ってますか?」

「城先生?」

「はい。お爺ちゃん先生。頭はホワイトカラー」

「そんな先生いるのかな。私らは内村先生だから。あ、3年の理系かな。3年生に聞いてみたら?」

「はーい」


 三咲は続いて3年生の理系クラスの先輩を捉まえる。


「あのう、先輩、生物の先生って城先生ですか?」

「ううん、池田先生ってマダムの先生。城先生は知らないけど」

「えー。そうか、お手伝いとか言ってたから、いつもは来ないのかな」

「どんな先生?」

「お爺ちゃんです。頭真っ白。でも桜の木はいろいろ詳しかったですよ。裏門でも会ったし、箒でお掃除してたし」

「ふうん?」


 3年の先輩は親切にも池田先生にそのことを聞いてくれた。池田先生はポカンとした顔をした。


「城先生? え? 1年生が会ったって? いつ?」

「さぁ、判んないけど桜がどうのって言ってたから4月とかじゃないですか?」


 池田先生は考え込んだ。先輩は心配になる。


「あのう…、その城先生って何か曰く付きなんですか?」


 池田先生は少し困った顔を見せた。


「うーん。曰くって言うのか、その…  城先生はもう亡くなってる筈なのよ」


 !?


 先輩もポカンと口を開けた。 ほ、ホラー? それとも法螺?


「あのさ、その話、放っておいて。変な噂は困るから。その1年の子には『判らなかった』とでも誤魔化して。城先生は、昔、海高に居たって言う伝説の先生なのよ」

「はっ、はい…」


 先輩も青ざめた。ほ、放っておこう…。丁度もうすぐ夏休みだし。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る