第7話 『私』の想い
「お疲れ様でした〜」
仕事を終えた『大空望(おおぞらのぞみ)』は前田の待つ車へと急ぐ。
「待ちなさい」
車が視界に入ったところで、サングラスをかけた女性に話しかけられる。
「あの…………あっ!ムグ…………」
「貴女馬鹿!?今は貴女が『大空望(おおぞらのぞみ)』でしょ」
女性は小声で囁く。
「どっ、どうされたんですか?」
「話しがあるわ」
「でっでも、社長が…………」
「話しは通しておくわ。来て」
「あっ…………望さん〜」
人の気の無い喫茶店で向かい合う『大空望(おおぞらのぞみ)』。
「あの〜望さん?」
サングラス越しで表情はわからないが、『大空望(おおぞらのぞみ)』は恐る恐る話しかける。
「どうされましたか?」
「貴女。なにを考えてるの?」
「?」
「借金までしてなにやってるって言ってんのよ!!」
「!!」
これまで聞いた『大空望(おおぞらのぞみ)』の真実に憤りを隠せない叶の声は店内に響き渡る。
「ちょっと望さん!止めてください。そんなこと大声で!?」
「あんたね!自分がなにしてるのか、本当にわかってるの?」
「勿論です。」
目の前にいる【自分】の目は後悔など一切無い…………そう物語っていた。
「なんでそんなことを…………アイドルになら今なら誰にでもなろうと思えばなれるわ」
その目にやられた叶のトーンは少し落ち着きを取り戻す。
「ただのアイドルじゃダメなんです。『大空望(おおぞらのぞみ)』でなきゃいけないんです」
「それがわからないのよ。幾らでも可愛い子はいるし、応援したくなるような子はゴマンと沢山いるじゃない」
「貴女はご自身の存在価値を過小評価し過ぎです」
始めてみる『大空望(おおぞらのぞみ)』の怒りの瞳に叶は思わず気圧される。
「恐らく望さんの言う通り『大空望(おおぞらのぞみ)』のファンだった人々の多くは別の人や別のモノに夢中になっているでしょう。でもそれは『大空望(おおぞらのぞみ)』が世間に認知され始めた時にファンになった人達です!」
「どういう意味?」
「可愛さと美しさを絶妙に両立される方は芸能界にも多くいらっしゃいます。でも『大空望(おおぞらのぞみ)』はその人達には無い。貴女を下積みの頃から追っていた私達にしかわからない魅了がある。そしてそれは私達が生きていくうえで大きな希望だったんです!」
(下積みの頃の私…………)
「貴女はスターダムを駆け上がりました。それは私達にとってもとても嬉しい事でした。自分の応援していたアイドルが頂に行くことが嬉しくないわけがないです!でも私達にとってはそれだけじゃないんです!!貴女がスターダムを駆け上がったことの意義が私達にとって重要だったんです!!!」
熱の籠もった【自分】からの評価に戸惑いを隠せない叶。
「でも望さんの人生は望さんのモノです私達の個人的な感情で望みもしない生活を送っていただく必要はありませんでした」
「……………」
「でも、知ってしまったんです!私のようにまだ踏ん切りをつけれる人がいれば、つけられない人がいることを!!」
「どういうこと?」
「私の友達に、望さんの熱心なファンがいました。その子は病弱でずっと入院生活をしています。でも貴女という【希望】を一目この目でみて感謝の気持ちを伝えたい………その一心で諦めかけていた退院して日常生活を送ることを目標に頑張っていたんです」
「その子は今は……………?」
「めげずに頑張ってはいます。でも嘗ての絶対に退院してやるって意気込みはもう…………ありません」
「そう…………」
「それに………」
「それに?」
「ッツ!!なんでもありません。とにかく貴女という存在は多くの人達にとって生きる支えだったんです!!!」
「・・・・・」
「だから私決めたんです。『大空望(おおぞらのぞみ)』を必要としてくれる人がいる限り、『大空望(おおぞらのぞみ)』でいようって、でも今の私が『大空望(おおぞらのぞみ)』に成れてないのもわかっています。だから社長とお話して1からスタートする方向で今は【『大空望(おおぞらのぞみ)』似のアイドル】して活動しています」
ブゥー・・・・・ブゥー・・・・・
バイブ音に反応し電話に出る『大空望(おおぞらのぞみ)』
「社長が呼んでますので失礼します」
「・・・・・そんなとこまで真似なくていいのに」
机に置かれたお金を眺め、叶は深く考え込んだ。
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