第6話 『私』の覚悟

前田から『大空望(おおぞらのぞみ)』の真相を聞いた叶は数日後、とある人物のもとを訪ねた。


プルルルル・・・・・プルルルル・・・・・


「・・・・・私だ」


「先生。叶と名乗る女性がアポをとりたいと来ているのですが」


「・・・・・通してくれ」


ノックもせずに、詰め寄る叶。


「久しぶりだね。叶く・・・・・」


「あんた!どういうつもりよ!?」


そのまま叶は男の胸倉を掴むと壁に叩きつける。


「それが、あの娘の意志だったんだ!?私はその意志に応えたに過ぎないんだ!叶くん」


「意志ですって…………」


トントン


「先生どうかされましたか?」


余程響いたのか心配した看護師がノックをする。


「大丈夫だ。気にしないでくれ」


「……………わかりました」


扉越しからの気配が消える。張り詰まる空気は変わらない。


「……………」


「その様子だと、あの娘の事を知ったんだよね?」


「当たり前でしょ。じゃなきゃ来ないわよ。こんなとこ」


「確かにそうだよね…………」


叶の顔色を伺いながら男は話を始めた。


「君が引退して2ヶ月経った頃だったよ。あの娘が訪ねて来たのは」



その日。男は久しぶりに日を跨ぐ前に家に帰れそうであった。


「大島先生ですよね?」


病院を出た直後。外でいつから立っていたかわからないが女の子に声をかけられた。


「えっ、うわっ叶くん?」


「……·…·…」


「って、違うか。流石にもう私は必要とされないよね彼女には」


「あの…………」


「あっ、いやごめんね。知り合いと声が似てたからつい…………」


「やっぱり似てますか?」


「えっ」


「良かった……………」


男には意味がわからなかった。


「貴方にお願いがあります。大島先生!」


「えっ、えっ、なんで僕の名前を…………」


男は取り敢えずと院内の診療室に招いたことを後悔した。


「なっ、なんだって!?そんなこと無理だ!!」


「お願いします!『大空望(おおぞらのぞみ)』さんのカウンセラーだった貴方にしか頼めないんです!!」


「頼む相手を間違えてる!僕はカウンセラー。心のケアの専門家だ。それにそんな風に君の目標を叶えちゃいけない!!」


「私だけのではありません!『大空望(おおぞらのぞみ)』に惹かれた人々はまだ彼女を必要としてるんです!!」


「なっ…………」


「『大空望(おおぞらのぞみ)』という光に希望を見出していた人々にとって。まだ彼女は必要な方なんです!」


「だからって、そこまでする必要は…………」


「望さんにそんな無理慈恵はしたくありません。なら誰かが替わりにならなくちゃ。私なら元々声も似てるから替わりに…………」


「さっきから何故【彼女の替わりに】に拘る!?君自身がソコを目指せば良いだろ!!」


「あの人だから魅せれるモノがあるんです」


(彼女だから魅せれるモノ?)


「それに、私はもう後には引けないんです」


「えっ、それってどういう…………」




「本当なの……………それ?」


話を聞き終えた叶はただ驚愕するしか無かった。

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