第5話 面接
「まあ、座れ。・・・・・コーヒーしか出せないがいいか?」
ずぶ濡れの少女が頷くと、前田はインスタントのコーヒーを用意する。
「『海野恵(うみののぞみ)』さんね・・・・・」
「はい」
(コイツ!?声までソックリじゃないか!?)
「いくつ?」
「19歳です」
「単刀直入に聞くが、その顔生まれつきなんだよな?」
ずぶ濡れの少女からの反応は無い。
「・・・・・・」
「どうして彼女は引退してしまったんですか?」
「さあな。詳しくは聞いてない。だけどあいつとしてはやり切ったんじゃないか?」
「やり切った?」
「毎日のように自分が出演するCMが流れ、オリコンチャートでは新曲を出す度に1位、時代の流れでもはや不可能と言われていたミリオンも2度達成、ライブツアーは60分以内に完売し、最終ライブツアーも全公演で満席。会場に惜しくも入る権利をファンが会場の外で会場を囲む程だ。・・・・・アイドルとして手に出来るものは手にしたとは思うぞ」
「私・・・・・『望のノゾミを叶える会』の会員なんです」
(『望のノゾミを叶える会』・・・・・数ある『大空望(おおぞらのぞみ)』のファンクラブの中でも熱狂的なファンが多いところだな)
「そうか。彼女を熱烈に応援してくれて、ありがとうな」
「望さんは、本当に夢を叶えられたのでしょうか?」
「なに?」
「私は・・・・・いや私達は彼女に親近感を抱いてました」
「親近感?」
「はい。彼女が達成された業績を愚弄する気は全くありません。でも彼女はどこか満たされてないように・・・・・感じました」
「なにが満たされてないと思うんだ?」
「わかりません・・・・・でも!少なくとも私達は私達に無いものを全て手にしている彼女にその感情を抱いています」
「・・・・・・」
「そして、彼女のいなくなったその後の私達は・・・・・あの頃に逆戻りになりました」
「あの頃?」
「ただ、暗く長いトンネルを突き進む毎日に」
「!?」
「私達にとって『大空望(おおぞらのぞみ)』は希望の光そのものでした。その光が消えてしまった・・・・・当然といえば当然です。だから私決めました!私が『大空望(おおぞらのぞみ)』になって、再び暗く長いトンネル入ってしまった人達に再び光を与える存在になることを」
「どうやってだ?あいつのスター性は早々身に付けられないぞ」
彼女は笑顔を崩さない。
「・・・・・まさか」
前田は彼女から狂気とも言える【覚悟】を聞かされた。
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