第3話「怪しいバイト」

「別に覗こうなんて破廉恥な事を考えてるワケじゃないぞ?ただちょい支度すんの遅くないかって思っただけで……」



俺は一体誰にこんな言い訳をしているんだか。

とにかく着替えに行ったバイトがなかなか戻って来ない事が気になって、俺は二階へ様子を見に上がる。


いやもし倒れていたりとかしたら大変だしさ。

そんな疾しい事は……一ミリくらいは考えもしたけど、やっぱり気になる事は気になる。


階段を半分まで上がったところで声が聞こえてきた。

上にはバイト…結城しかいないはずだ。


という事は考えられる事は一つ。

誰かと電話中なのだろう。

だから中々来なかったんだな。


俺はすぐに下へ戻ろうと体の向きを変えた。

その時だった。

今度はわりとはっきり鮮明にバイトの声が聞こえてきた。



…「はい。はい。わかってます。近いうちに入金があるんです。本当です。だからもう少し待ってください」



な…何だよ。あの通話。

俺は思わずその場で足を止めて立ち聞きしてしまった。


何かヤバくないか、あの内容。


すると上からガタガタと物音がして、通話を終えたらしきバイトが部屋から出てきた。

 



「あっ、店長……あの、もしかしてさっきの電話聞いてましたか?」



「うえっ?あー、そのチラっとだけな。誰かと話してたのか?」



するとバイトは満面の微笑みを俺に浮かべ、きっぱりと言った。



「はい。お母さんと話してました」




………嘘つけ!





「あー、そーなんか。うん。そっかそっか。お母さんか」




あんな不穏な会話を交わす親子がいるか?

絶対嘘だろ。

母親にあんな敬語使うか?

それに入金って何だよ!

つかバイト、お前一体何者だよ!



頭の中ではそんな事を捲し立てている自分がいた。

だが、俺はその雑な嘘を信じたかのように振る舞った。


理由は一つしかない。


怖いからだ。

情けない話だが、何となく巻き込まれるのが単純に怖かったのだ。


バイトはそんな俺の挙動不審な様子に気付く事なく、厨房へ入っていく。

 



「さぁ、今日も頑張りましょうね!店長」




「あぁ。そうだな」




俺はそんなバイトの後ろ姿をじっと見つめる事しか出来なかった。


もしかしたらバイトは金に困っているのかもしれない。

だとしたらこんな店ではなく、もっと稼げるところへ行くべきではないだろうか。


勿論使えないバイトではあるが、こんな安い賃金でシフトに入ってもらって俺は助かっているが、バイトにしたら割に合わないのではないか。


しかし、バイトが空色ライムではないかという疑念はどうなるんだ?

もしもバイトが本物の俺の推しだった場合、この状況はどういう事になるのだろう。


それが事実だとすると、バイトは芸能人であり、日本の芸能界の中でもかなり稼いでいる方のアイドルなはずだ。


そんなアイドルが果たして金に困る事があるのだろうか。


やはり違うのかもしれない。

だとすると、俺はどうするべきなのだろうか。



俺はその日、ずっとその事で頭が一杯だった。




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