第10話 後悔

2023年11月8日 AM11:00


「そんな、そんなぁ・・・」

絵美はひたすら走っていた。


涙で滲む視界は街の風景をモノトーンに染めていく。


どこに辿り着いたのだろうか。

見知らぬ公園のベンチに座っていた。


※※※※※※※※※※※※※※※


『アタシは絵美が大嫌いだったから・・・

あんな何も考えないでチヤホヤされるお嬢様を不幸にしたかったんだ。

だから、ヘタレな優太を誘惑して、結婚したのよ』


『俺の子種とも知らなかったんだろぅ、アイツは?』


※※※※※※※※※※※※※※※


不条理な真相を聞かされた。


絵美は、優太は騙されていたのだ。

沙也加と宏の狡猾な罠に。


あの日。

優太との関係を知らされて襲撃を受けた絵美は。


なぐさめる宏の腕の温もりの中に身体をゆだねてしまった。


軽く食事をしようという提案に頷いた絵美は。

酒の中に睡眠薬を入れられたことも知らずに。


目を覚ました時は。

ホテルのベッドの上だった。


白いシーツに。

赤い染みを見つけた。


その事実に。

愕然とした。


それでも。

優太への想いを捨てきれなかった。


だが、数か月後。

残酷な事実が待っていた。


妊娠してしまった。

宏の種を宿したのだ。


激怒した父が言うがままに、堕胎も考えたが。

お腹の重みに生むことを決意した。


結婚までは考えなかったが。

宏は夫になることを承諾した。


それは絵美の父が経営する会社を狙っていたことだと知るのは。

随分、後のことだったが。


考えてみれば。

優太にしても優秀な成績で一流企業に就職できるのは確実だった。


いや。

沙也加にしてみれば絵美を不幸にするだけで満足だったのかもしれない。


聞けば。

子供を放置して遊び歩いているらしい。


仕事の忙しさの中。

優太は子育てにも頑張っているようだ。


(あぁ・・・)

絵美は心の底から後悔していた。


あの時。

二人の嘘に気づいていれば。


優太の愛を信じていれば。

こんな悲惨な未来は待っていなかったのに。


あの時。

レストランで、四人で会う時に。


いや。

その前だ。


クリスマスイブの前日。


ゼミのコンパを欠席しなければ。

あのまま、優太に抱かれていれば。


今の不条理な事実は消せる筈なのだ。


時を遡れれば。

過去を塗りかえることができれば。


そう。

思った時。


絵美は思い出した。

それを可能に出来る人のことを。

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