第7話 すれ違い

2017年12月24日 AM10:00


「遅いなぁ・・・」

絵美は腕時計を見つめながら不安そうに呟いた。


約束の待ち合わせの時間から一時間も遅れていた。

今日は優太とデートする予定だった。


映画と食事をして。

それから。


絵美は「初めて」を優太にあげる興奮に胸を震わせていた。

付き合い始めて三ヶ月。


ようやく決心した天使は。

クリスマスプレゼントに自分を捧げるという。


ベタなアニメでも描かない物語を。

一生懸命、考えたのだった。


優太も期待していると思う。

だけど、敢えて言わなかった。


驚く男の顔を見たかったからだ。


だが。

十二時を過ぎても、優太は来なかった。


「よぉっ・・・」

代わりに声をかけたのは別の男だった。


高木宏。

後に結婚することになる未来の夫だ。


その甘いマスクからこぼれる白い歯に。

絵美は眉をひそめた。


有名な女タラシ。

次々に恋人を変えている男。


同じゼミで。

絵美も一度、口説かれたことがある。


優太への想いから。

直ぐに断ったが。


粘つく視線を感じない時は無かった。


よりによって。

こんな時に。


「イブなのに、一人なの・・・?」

馴れ馴れしい口調に待たされたいら立ちも手伝って、素っ気なく顔をそらした。


「ふふふ・・・」

男の顔が醜く歪んでいるのにも気づかずに。


「どう、一緒にランチでも・・・?」

宏の誘いのも応じることなく、絵美はヒールの音を立てて去っていった。


「やれやれ・・・」

古臭い映画のワンシーンのように肩をすくめる男は、満足そうな笑みを浮かべて見送るのだった。

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