大河ルルリスと都市国家(五)
「ま、待ってください!」
私は慌てて
「おい、邪魔すんじゃねえ」
「だ、駄目です。勝てるわけありません、だってあの
「わかってんじゃねえか。
「だったら……」
「いいか、勝てなくても負けなきゃいい。何なら負けても生き残りゃいい。黙って見とけ」
言い捨てて歩みを進める師匠。この人を行かせていいのだろうか、まだ体調が戻りきっていないというのに、相手はあの
でも、と自分に言い聞かせる。この人は自分を見失うことがない、敵を見誤ることもない。自分の体調も相手の実力も承知の上で「黙って見とけ」と言ったのだ、ならば私はそれを信じるしかない。
黒髪に黒の金属鎧、雄大な体躯。黒く塗られた鞘から大剣を引き抜いたのは
うらぶれた
打ち交わした初撃の音は意外と小さなものだった。おそらくは力勝負を挑んだ
だがそれを無条件に許すような相手ではない。黒い大剣が暴風のごとき
だがこれは誘いの隙だった。追い立てる
「ようこそ俺の戦場へ、
軽装で身軽な
雄大な体格に金属鎧、長さも厚みも通常のものとは比較にならない大剣、だがそれらが
一方の
だがそれも薄氷の上での優勢。互いの剣を打ち交わすことしばし、先程とは逆に
「おっとぉ! こいつはやべえ」
「……」
一方
「
「……いいだろう」
疲労を
リージュやエクトール君のような
「やれやれ、若え奴の相手は大変だぜ。葡萄酒をくれ」
「はい、お水です」
「……お前、俺の話聞いてたか?」
「はい。体はお酒より水が欲しいって言ってます」
でも「尊敬してます!」などとは絶対に言わない。悪態をつかれるか照れ隠しにひっぱたかれるか、いずれにしてもろくな事にならないだろうから。
コステア城塞に戻った私達はヘンリー公爵に復命。私室に通された私達は
彼によると隣国のミゼル伯は何かにつけてコタール王国に
「ミゼル伯国の威を示すべく出撃したものの偶然にも勇者
「まったくあの野郎、こっちは命懸けだってのに楽しそうにしやがって」
「実際楽しみにしてるだろうさ。
「自前で腕の立つ奴を用意しろよ。タダ酒くらいじゃ割に合わねえ」
「悪かったよ、まずは飲んでくれ。ゆっくり話を聞かせてもらうよ」
だがいかにも熟成されたと知れる琥珀色の液体を
そして何もかも承知したように含み笑いを浮かべるヘンリー公爵、この人はおそらく国内の悪評を一身に集めることで弟を助けているのに違いない。城内の建造物を見る限り建築家志望というのも嘘ではないのだろうが、それを理由に国境の城で難局に当たる立場を楽しんでさえいるように見える。どうやらこの人も師匠に劣らず
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます