大河ルルリスと都市国家(三)
コタール王国はその町自体が一つの国である都市国家だが、その南部国境地帯にコステア城塞という出城を一つ有しており、公爵であるヘンリーが城主を務めている。
私達はコタールからさらにルルリス川を
さすがに城壁の高さや防衛設備では見劣りするものの、楕円形や星形といった妙に特色のある軍事施設が立ち並び、それぞれ異なる意匠の物見
さて。このコステアでも情報を収集するべく、荷揚げに忙しい輸送隊の隊長さんに声をかけて私達は
「うわあ……」
ともかく、
幅の広い街路の両側に屋台と露店が所狭しと並び、野菜、果物、穀物、肉、魚、干物、酒類、それだけではない。衣料品から装飾品、日用品、武具の類まで何でも揃ってしまいそうだ。
しかも店主も客も半数ほどが亜人種か
「やあ、飲んだくれ二世。買い物かい?」
「え? えええええ!? ヘンリーさん!?」
立派な体格とは対照的に軽薄そうな表情、ねずみ色の作業服。どう見ても土木工事の作業員といった
小国とはいえこの人は一応ここの城主を務める公爵様だ、こんな所にふらりと現れて良いのだろうか。驚きのあまり口を半開きにする私だったが、その疑問には
「こいつは王様より建築家になりたかったんだってよ。だから出城の城主になって好き放題やってやがるのよ」
なるほど、先ほど見た前衛的な形の軍事施設はこの人が造ったものかと得心する。中がくり抜かれた楕円形の兵舎、星形二階建ての催事場、斜め白黒の
「まあ、そんなところだ。良かったら案内するよ、そういう任務で来たんだろ?」
両手を広げて片目を
「どうだい、この兵舎。全ての部屋から外か中庭のどちらかが見えるようになってるんだ。明るくて最高だろう」
「はあ、そうですね……」
「物見
「はあ、そうなんですね」
それぞれにこだわりがあるのは良くわかったのだけれど、肝心の実用性はどうなのだろうと疑問が湧いてくる。ついでに言えば統一感というものがなく、古く
「ここはコタールよりさらに
そう語りつつ、
だがそのヘンリーさんに近づき、何やら耳打ちする人が現れた。引き締まった体つきに鋭い目つき、実用的な
「悪い、仕事ができた。案内はまた今度だ」
彼は
「俺の出番はないのか? タダ酒の分くらいは働いてやるぜ」
「……そうだな、そうなるかもしれない。一緒に来てくれ」
コステア城塞にもやはり壮麗な城というものは無く、ヘンリー城主に続いて入ったのは司令部施設。どんな奇抜な建物かと思いきや木造の平屋建てで、木目を活かした明るく開放的な屋内だった。天井の大きな採光窓が自慢だという説明も欠かさず付け加えるところはさすが建築家といったところだろうか。
上部の解放空間から陽光が差す会議室、そこには既に数名の兵士さんと幹部らしき軍人さんが顔を揃えており、両脇を兵士さんに固められた白い犬の
「待たせて悪い。状況を聞かせてくれ」
兵士さん
「ふむ。名前は?」
「……ペチです」
「獲物を追ってミゼル国に侵入したこと、間違いないか?」
「そ、そうです。ごめんなさい」
「わかった。あとは俺の仕事だ、帰っていいぞ」
「ぼ、僕、公爵様にご迷惑をおかけしました。どうすればいいですか?」
「そうだな。ペチ、家族はいるか?」
「は、はい。お母さんと、妹と、妹がいます」
「そうか、では帰って心配ないと伝えろ。そして今日はゆっくり休み、明日また狩りに出ろ。それがお前の仕事だ」
安心したように尻尾を垂らし、耳を立たせて何度も頭を下げて出ていくペチ君。私は聞こえないように
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