あの日の勇者様と罪人の道(二)
粗末な衣服を
「あなたが忘れても、私は覚えています。背中の
「……」
私はこれでも土木工事の経験がある。ロッドベリー市の勇者に認定されたばかりの頃は仕事もお金も無くて、水路や城壁の補修、どぶ
「私、あなたに憧れて勇者になりました。誰が何と言おうと、今のあなたが何だろうと、あなたは私の勇者様です」
「……」
返事は無く、私は勝手に作業を手伝うことにした。一人ではびくともしない大きな切り株を
何も言ってくれない彼を手伝うこと半日、これほどの時間と労力を
すっかり陽が落ちてさすがに汗が冷えてきた頃、作業を終えて歩きだしたトニオさんに勝手についていき、おそらく住居にしているのであろう粗末な小屋の前で焚火をする彼の前に勝手に座り、勝手に作った豆スープを差し出した。戸惑った表情に満面の笑顔で応え、食後に温めた葡萄酒を手渡すと、あの日の勇者様はようやく重い口を開いた。これは罪滅ぼしだ、と。
◆
若い頃、俺は文字通りの『泥棒』だった。勇者を
それでも殺しはしないのがせめてもの
そしてあの日。罪の重さを知らぬままに勇者を
「リナ! 戻ってきちゃ駄目!」
「来るな! 隠れてろ!」
今まさに
その時ふと思った、俺が殺してしまったあの子供にも名前があったのだろう。こんな人間の
そうだ、このリナという子供の代わりに俺が死ねばいいのだ。どうせ
「あ、目を覚まされたのですね。良かった、勇者様のおかげで何人も生き延びることができました。お礼を言わせてください」
だが死ぬことができなかった。俺は悟った、最期だけ勇者の真似事をして気分良く死んだくらいでは罪を
だがこそ泥の俺は本物の勇者のように強くもなければ度胸もなかった、背中の
しばらく人里離れた山中に住み、考えた。せめて俺のような奴に人生を狂わされる人が少しでも少なくなる方法は無いものかと。
幸いというべきか、日雇いで土木工事の経験があった。道が整備されれば商人や旅人の往来が安全になり、人々の暮らしが少しは良くなるのではないか。こそ泥の俺にはわかる、開けた広い道、起伏のない良い道に盗賊は現れない。商人や旅人が馬車で通れるようになれば
「町にも住めない
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