七色の蝶と霧の町(七)
前門の大根、後門の馬みたいな何か。他に逃げ道など無い地下通路で前後を塞がれて私はもはや進退
「リナちゃん、ありがとね。短い間だったけど楽しかったよ」
耳元で
後ろでは足音が消え、何かが地面を滑ってくる音がする。おそらくは先程と同じように床を凍らせて馬のような何かを転倒させたのだろう。前後を挟まれてしまったことに変わりはないが……
「上だ!」
鍛え上げた足で思い切り床を蹴りつけ、体を跳ね上げる。前方に倒れ込む
地下通路を抜け、階段を駆け上がり、湖畔の館を出てようやく振り返る。
霧の湖はすべての生命が失われたように静まり返り、小鳥のさえずりや木々のざわめきどころか蝶が羽ばたく音すら聞こえない。
「プシュケー……」
力なく
昼なお暗い霧の中、七色の蝶はひらひらと舞い、まるで導くように霧の中を進んでいく。ただ先程までと違って蝶からは何の意思も感じられず、一つの言葉も発しない。
「ねえプシュケー、返事してよ。さっきまであんなにうるさかったくせに」
「さっきはありがとね。魔法で助けてくれたんでしょう? もう少ししか力が残ってなかったのに」
「もう一回だけお話できない? せっかく友達になれたのに寂しいな」
私の問いかけにも蝶は聞く耳を持たず、ただただ霧の中を進むだけ。
それはそうか、蝶なんだから。あの子との会話が、地下通路での出来事が、すべて夢の中だったような気がする。霧の中で蝶が見せた
霧が流れた。不意に真上から陽光が差し、自分が稜線に立っていることを知った。
右手には青く
左手には
誰かの帰りを待つカンドレバの町は色鮮やかにその姿を浮かび上がらせ、帰るべき家はここであると主張する。待ち人達は一〇〇日ぶりに姿を見せた太陽を見上げ、無事の帰宅を待ちわびる。
「ありがとう、プシュケー。……プシュケー?」
たった今まで道案内をしてくれた七色の蝶は、霧とともに
極彩色の町のあちこちで「おかえりなさい」と「ただいま」が交差する。長らく行方不明だった
「勇者のお姉ちゃんだ! やっぱりお姉ちゃんは本物の勇者様だったんだな!」
証拠なんて何もない。七色の蝶も湖畔の館も不格好な番人も、すべて夢の中の出来事だったのかもしれない。
霧が晴れたのはただの偶然で、もしかしたら私は嘘つきなのかもしれない。それでも私はあの霧の魔女を、蝶の友達を忘れたくない。誰もが嘘つきと
「私ね、七色の
霧の町カンドレバ。一年の大半を白い霧に閉ざされる町。
だが七色の蝶と色鮮やかな街並みが帰り道を示すため、
年に数日だけ顔を見せる湖面は青く
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