七色の蝶と霧の町(三)
ようやく得られた手掛かりも、霧の中におぼろげに浮かぶ太陽のように頼りないものだった。
人語を話す七色の蝶とやらが存在するとして、どこに行けば会えるのか。
しかし人を導く蝶というものが
「濃霧の中に突如として館が現れ、蝶の警告を無視して入った者が帰ってこなかった」
「霧の中で迷った猟師が不思議な蝶に導かれて町に帰ることができた」
「怪しく光る蝶を捕まえて籠に入れたが、町に帰ると籠には何も入っていなかった」
「蝶は神の使いである、いや人を惑わせる悪魔の使い魔である、いやいや亡くなった者の魂が蝶の形をとったものである……」
『蝶』という言葉に絞って聞き込みをすると、取捨選択に困るほど様々なお話を聞くことができた。人を惑わせたり警告を与えたり、時には
そしてこの日訪ねたのは、町の語り
「そうなの。それでね、女の子は肩に止まった
「あの、私があげますので。お話の続きを……」
お婆ちゃんは見た目よりもずっとお元気なようで、途中でお茶を
猟師である父親がいつまで待っても帰って来ないことを悲しんだ女の子が霧に閉ざされた森の奥に向かい、濃霧の中に突如現れた湖畔の館の前で蝶々に入るなと警告を受けた。だが帰り道を失って疲れ果てた女の子は再び蝶に出会い、導かれて大木のうろを見つけその中で一夜を明かした。
一晩中女の子に寄り添っていた蝶は翌朝になると消えていたが、その蝶が言い残した通りひときわ
このようなおとぎ話を
その蝶に霧を払う力があるのか、それとも近づくと警告を受けるという館に何か手掛かりが隠されているのか。お婆ちゃんの話の中にいくつか目印らしきものが出てきたこともあり、私は湖畔の森に踏み込むことを決めた。
白と黒と灰色が支配する霧の中に毒々しい
見通しの悪い山中で誤って猟師に弓矢を射られぬよう、遭難した際に発見されやすいよう目立つ色の上着を着ることがこの町の常識だと聞いて購入したのだけれど、他の町ではとても着られないような
水分をたっぷり含んだ下草を踏みしめ、水滴が
七色に光る蝶などというものが本当に存在するのだろうかと自分に問いかけ、何を今さらともう一度苦笑する。
「
お婆ちゃんから聞いた話にあったように、ひときわ
「おわあっ!?」
いつの間に現れたのか、目の前で掌ほどの大きさの蝶が舞っていた。黒く縁どられた羽は七色に怪しく光り、私を誘うように森の奥へと遠ざかる。歩み寄れば霧の中に消えてまた現れ、歩みを早めればまた遠ざかる。この世ならぬ世界に
「これは……」
これが町の人達が言っていた湖畔の館? それほど大きくもない石造りの建物は
そして私の前には、どこから
「いらっしゃい、旅人さん。あなたにお願いがあるの」
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