左利きのエクトール(六)
「どうしてついて来るんだい? 意見が一致しないことを確認したばかりじゃないか」
「だって心配だもの。その剣を持った人はみんな戦いの中で命を落としたって聞いたよ?」
私はしばしの間、エクトール君と行動を共にすることになった。彼の言う通り先日喧嘩別れしたばかりなのだが、これは
初夏を迎えたイセルバードの町は人の往来が多く、馬車も徒歩と変わらぬくらいにまで速度を落とさなければならない。
エクトール君はイスマール侯爵邸で定期報告を済ませ、与えられた集合住宅の部屋に戻るところなのだが、それまでの間に数えきれないほどの人とすれ違う。
「おっと、失礼」
「あ、ごめんなさいね」
若い男性、初老の女性、この短い間にエクトール君は二度ほど人とぶつかりかけた。そのたびに眉根を寄せて舌打ちせんばかりの表情をする、右腰に提げた剣の柄頭に右手を掛けたまま離さない。侯国勇者になる前の彼にこんな様子はなかった、
「あの建物に住んでるの?」
「……ああ、そうだよ」
言葉少なに肯定するエクトール君。警戒されるのは悲しいけれど、実際に警戒されるようなことをしているのだから仕方ない。
「ずいぶん立派な
彼が私との会話に気を取られた瞬間、若い男が横からぶつかってきた。
「エクトール君、財布は!?」
「ちっ!」
用心深い彼が財布をすられてしまったのは私と会話していたこと以上に、一瞬『
「これが『
白髪白髭の老人は抜き身の剣を右手に持ち、にやりとしか表記できないような笑みを浮かべた。私はこの人の正体を知っている、なにしろこの剣を奪ってほしいと持ち掛けたのは私なのだから。
「……僕を出し抜くとはやるじゃないか、リナさん。そちらは
「ご名答。なかなか切れるじゃねえか、坊主」
これが
「
「断る。こいつぁ俺のもんだ」
「では仕方ありません。【
その声に合わせて『
「
「いいえ」
短く答えたエクトール君は、それ以上の問答を拒否するように左手の剣を構えた。
【
魔術師でない彼がその魔法を使ったということは、私が以前リージュからもらった
そして
「参った参った、こいつは一杯食わされた。俺は丸腰だが、ここで
へらへらと笑って両手を広げた老人を
「今日のところはお前さんの勝ちだ。また来るぜ」
先程までよぼよぼと腰を曲げていた白髪白髭の老人は私達に背を向け、ズボンのポケットに片手を突っ込んだまま残った片手をひらひらと振った。
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