左利きのエクトール(二)
一度イスマール侯爵邸に立ち寄り、侯国勇者となったエクトール君の所在を聞いた私はすぐにその地に向かった。
小麦を主に産するウラムという小さな町に
「うわ……」
町の入口に
察するにもう討伐を終えたのだろう。さすが智謀無双の勇者だと誇らしく思うのと同時に、私はちょっとした違和感を覚えてもいた。
彼は妖魔を倒しても首を
ただ今はそれよりも焦りが先に立った。もしかするとエクトール君と入れ違いになってしまったかもしれない、そうなればまたイセルバードに戻って彼の所在を聞き直さなければならない。
幸いなことに、彼の姿はすぐに見つかった。
「やあ、リナさんじゃないか。こんな所までどうしたんだい?」
「エクトール君に伝えたいことがあって。もう
「二匹仕留めたところだけど、もう一匹残っているらしいんだ。せっかく来たんだ、明日一緒に行こうか」
事もなげにそう言ってしまう彼はやっぱり頼もしい。
「ふうん、さすがだね。今回はどんな手を使って倒したの?」
「別に。大した相手じゃないからね」
……おかしい。この子は秘密主義ではなく、むしろ自分の考えを人に聞いてもらうことを好むはずだ。まして相手が私なら遠慮なく得意気に話してくれると思ったのだけれど。そう思ってもう一度聞き直そうとしたところ、大きな声に
「よう、勇者様! 小さな
振り返ればいかにも仕事帰りの農夫という男の人が
「若き侯国勇者様に乾杯!」
「乾杯!」
私はその
でもこの違和感の正体は何だろうか? そもそも彼はお酒を飲まず食にもこだわりがなく、わざわざ人が多い酒場などに好んで出入りするような人物ではなかったはずだが……
不意に私はそれに気付いた。右手で
彼は右腰に剣を提げている。しかもあの白銀色の
「
魔人ペイルジャックと
私は彼にポタ村の件を伝えることを失念していたわけではなかった。だがこの
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