対空戦闘用意(五)
「北方より有翼生物の接近を確認、数は三……いや、多数!」
対空戦闘用意の命が発せられ、にわかに慌ただしくなるロッドベリー砦。待機状態にあった私達も城壁に駆け上がりその姿を認めた、その頃にはさらに情報が修正されていた。
「
先日は敵の油断もあり、訓練の
私だけでなく北側城壁第三射台の面々にも緊張が走ったものだが、エクトール君だけは逆に
それは
「あれは……」
複数の視線が一点に集中する。接近しつつある有翼生物の群れの中央、ひときわ大きな翼を広げる影。その姿は弱々しい陽光を反射するたびに赤く
「
私は頭の中が真っ白になった。両親を、幼馴染を、村を喰らい尽くしたあの赤い
「問題ない。この対空装備は
落ち着き払ったその声に我に返ると、少年のような顔立ちの勇者補佐は平然と皆の視線を受け止めていた。
「僕達の矢は必ず
本来ならばそのような発言は許されない、射台の護衛を務める勇者の、さらに補佐。だがその自信と勇気は周囲を圧倒した。
昨年の『大討伐』でリージュが見せた雄姿が彼に重なる。私はまた歴史上の英雄が誕生する瞬間を目にしているのかもしれない。
「目標、正面の
急病とやらで病院に引っ込んだ司令官の代理を務めるリットリアさんの声が聞こえたわけではない、司令部からの手旗信号を受けた連絡員がそう告げた。誰もが鼓動を早め、掌に汗を感じつつ
「
三連装十四基の
だが十本に近い矢を全身から生やした
「直上より
体表を覆う鱗の色は赤、緑、青と様々で、おそらく生息地の影響によるものと考えられている。体長も約二
「あ、あぶなかったあ……」
「リナさん、上だ! もう一匹来る!」
「防衛装置作動!」
エクトール君の指示に対して最も早く反応したのは私だった。城壁に掛けてあった手斧を手にすると、自分の腕ほどもある綱に向けて力いっぱい振り下ろす。
切断された綱で保持されていた巨石が重々しい音を立てて落ち、反動で三
だが幼年期とはいえ
『戦闘中は気を散らすな。負傷した仲間を助けるのは自分の安全を確保してからだ』
師匠の言葉を思い出す。つまり今はこの
「やあああっ!」
吐き出された炎を搔いくぐり、腹部に長剣を埋め込む。だが体長四
『迷うな。退くな。
埋め込んだ長剣をそのままに逆手に握り替え、体重をかけて真下に切り下げる。大量の血と臓物が溢れ出し、城壁の上に血溜まりを作った。振り下ろされた爪が頭を
「第一射台、
「第二射台、応答なし!」
「北側兵舎損壊!」
次々ともたらされる報告の中に戦況の好転を示すものは一つも無い。復讐の雄叫びに空を震わせる赤い龍、あの日と同じだ。
でも、と後ろを振り返る。頭部を赤く染め上げながらも立ち上がるエクトール君、曇天に
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