聖都ファル・ハールと神聖勇者(三)
黒っぽい砂岩で作られた古い砦だ。吹きさらしの丘の上にあるためか積雪は薄く、凍った地面がところどころ露出している。
もちろんロッドベリー砦に比べれば極めて小規模だけれど、四方を囲む城壁に見張り
防御を固めた砦を攻め陥とすには防御側の四倍の兵力が必要であると教えてもらったことがある。それが本当だとすれば五十を数える敵に対してこちらは二百人の兵士を揃えなければならない。ところがこちらはたった十五名、普通に考えれば無謀にもほどがある。いくら
「魔術師を中心に
自ら先頭に立つ
「全体停止、密集隊形! 詠唱始め!」
再び指示が飛び、盾に守られた二人の魔術師が詠唱を始めた。
どうやら最初から作戦も使用する魔法も決まっていたようで、皆の動きには一切の乱れも迷いも感じられない。詠唱の声すら完璧に同調しているところを見ると、何度も演習を繰り返していたのかもしれない。
「天に浮かぶ星の
詠唱が長い。攻撃魔法の基本とされる【
「
私には何が起きたのかわからなかった。何の前触れもなく爆音が
消えていた。黒い砂岩の城壁が、城壁上の弓兵が。跡形もなく。
【
最上級の攻撃魔法であり、その習得は困難を極める。リージュでさえ『叡知の杖』と補助の魔術師の力を借りなければ発現させることはできず、それが揃ってさえ魔力を使い果たすほどだ……というのは後にリージュ本人から聞いた話で、私にはこんなものが
「
その言葉は海を隔てた異国でも同じ意味を持つという。白一色であったはずの軍装を灰色に染め上げ、
ここに至ってようやく私は理解した。彼らは練度、装備、士気、その全てを高い水準で備えた精鋭で、
「リージュ、大丈夫?」
「……うん」
その答えは予想していたし、事実ではないことも承知している。彼女は凍土の上に突いた杖を支えにしてようやく立っているし、もう一人の魔術師に至っては憔悴しきって座り込んでいる。あのような人智を越えた現象を起こしたのだから無理もない。
さほどの時間を要さず、
帰りの馬車でもやはり一言も発しなかった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます