聖都ファル・ハールと神聖勇者(二)
私を歓迎してのものか普段通りなのかはわからないけれど、その日の夕食は豪華なものだった。牛肉と冬野菜がたっぷり入ったポトフは何度でもおかわりできたし、添えられたバゲットも小麦の香りがする。薄い
あの母親はやっぱり毎日飲み歩いていて、たまに朝まで帰って来ない日すらあるという。にもかかわらずこれほど豊かな暮らしができているところを見ると、この国の勇者として迎えられたリージュの待遇は相当に良いのだろう。
「ごめんね、お別れも言わずに引っ越しちゃって」
「謝ることないよ! リージュが悪いことなんて何もないんだから」
「うん……でもリナちゃんと一緒にいたかったなあ」
もちろん私も思いは同じだ、でも貧乏勇者の補佐ではこんな生活はできなかっただろう。リージュにはその才能と能力に
「
「ん……そうだね。厳しい人だけど、自分にはもっと厳しいよ」
暖炉の火がゆらめく居間に場所を移して、この日は遅くまで語り合った。リージュも珍しく
翌日、私とリージュは二頭立ての馬車で郊外に向かった。向かいの席には
盗賊団の討伐に同行したいと願ったところ快く了承してくれたのだけれど、やはりその体格と存在感は只事ではない。微笑を浮かべて話しかけてくれても私の緊張は解けることがなかった。
「リージュ君はリナレスカさんの補佐だったそうだね。奪うような真似をしてすまない」
「い、いえ! リージュはとっても優秀で! 私なんかにはもったいなくて!」
「彼女の力はよく知っているよ。もはや私の隊になくてはならない存在だ」
困ったような顔で私を軽く
問題の盗賊団はファル・ハール市郊外、山中に放棄された砦を拠点にしており、五十名を優に上回る人数で周辺の村を我が物顔で支配しているという。思っていたよりずいぶんと大規模な集団のようだ、対するこちらは十五名ほど。いくら
盗賊団が支配しているという村に私たちが到着したときには既に、先乗りした部隊が数名の盗賊団らしき
「お前達は『
「い、いや、まさか
「もう一度聞く。お前達は『
「そ、そうだ」
白き聖剣が冬の弱々しい陽光を反射した。無言のまま一度、二度、三度。首から上を失った男達はその場に埋められ、残された首は村の中央に掲げられた。
胸の前で腕を組み、目を閉じたまま微動だにしない
隣に座るリージュに視線を向けても、口元を引き締めたままの横顔が見えるだけ。重苦しい沈黙を破ろうと言葉を探すものの何も頭に浮かばない、浮かんだところで口に出すには相当な勇気が必要になるだろう。
無言のまま雪を蹴立てること二刻余り、馬車はようやく盗賊団が根城にしているという砦に到着した。
真っ先に外に飛び出し、胸の中の空気を全部入れ替えようと大きく息を吸い込み……急に冷たい空気を吸い込んだせいで盛大にむせ返った。てへへ、と頭を掻いてリージュを振り返ったが、彼女は硬い表情のまま視線を返すのみ。
何だろう、この重苦しさは。
まるで
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