魔人ペイルジャックと魔女の夢(四)
ラウドルック遺跡、地下第二層。首の無い二つの死体が立ち尽くす中、血の雨を浴びて
あまりに不吉で凄惨な光景に思考が追いつかない、体が動かない。私だけではない、この場にいる全ての人が。
その中で
だが血
「天に
男の胸に白い光の矢が弾ける。一本、二本、三本と続けざまに浴びせられたそれは確かに肉を裂き、骨を砕いた。常人ならば立っていることもできない、それどころか即死してもおかしくないほどの負傷。だが男はそれに構わず左右の剣を舞わせて衰えることなく斬撃を繰り出す。
「そんな馬鹿な! 何なのコイツ!」
【
「ペイルジャック!」
複数の視線が私に集中する。しまった、と口を手で覆ったがもう遅い。
「何だお前は? 俺の名を知って生きている奴がいるのか?」
ペイルジャック、
あの
「ぼけっとしてんじゃないよ! 逃げなさい!」
その声にようやく我に返る。アリスタさんの言う通りだ、ジェダさん達がいかにロッドベリー市が誇る勇者とはいえ容易に勝てるような相手ではない。私なんかがいたところで役に立つわけがない。
でも。あの戦いを見ていた私にはわかる、この魔人はあの時の奴とは違う。二回りほど体が小さいし、力も魔力も数段劣る。それでも恐るべき妖魔には違いないけれど……
魔人の双剣が地下の
人と魔の戦いの形勢は次第に一つの方向を示しつつあった。苦痛と疲労に顔を歪める剣士、魔力を使い果たして石床に崩れ落ちる魔術師。あのとき人に味方した運命の女神の天秤は、今度は魔に傾いたのだろうか。
「……いや、私がいる」
そう。誰も私など見ていない、この場で最も無力で取るに足らない存在だから。
でもそんな私だからこそ劣勢を
ずっとこれを待っていた、逆転の一手を放つのは今しかない。掌の
「リージュ、私に力を貸して!」
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