魔人ペイルジャックと魔女の夢(二)
ラウドルックという名前のその遺跡は、ロッドベリー市から徒歩で半日余りという近郊にある。数百年前に滅びた同名の都市がそのままの形で残されているというもので、頑丈な石造りの建造物などは十分に原形を留めている。それに加えてラウドルック遺跡は地下にも二層に渡って居住空間が広がっており、探索の範囲はさらに広がる。
このような遺跡からは古い時代の金貨や宝石、魔法に関する品などの財宝が見つかることが稀にあるのだが、この遺跡は以前から広く知られているため無数の探索者に荒らされ、今や獣や死霊が徘徊するだけの廃墟と化している、はずだった。
だが最近になって複数の
ここは市街地の外れだったのだろうか。二
「アンタ、命懸けでアタシを守るのよ? どうせアンタだけ生き残っても無事に帰れないんだから」
「はぁい」
その入口を前に、硬い携帯食を
私と向かい合って大石に腰を下ろすそのアリスタさんは朝にサラダを少しつまんだだけで、あとは何も食べていない。リージュも小食だったけれどこの人はそれ以下だ、私なら空腹ですぐに倒れてしまうだろう。
「さ、行くわよ。何してるの、アンタが先に入るのよ」
「はぁい」
芸のない返事を繰り返して
「天に瞬く光の精霊、来たりて闇を照らせ。【
白い光が辺りを照らし出す。やはり
地下空間はやや風化しているものの、床と壁は綺麗に
新たに
区画分けされた大きな空間がそこかしこにあり、荒らされた形跡のあるがらくたが散らばっている。察するにこの階層は倉庫として使われていたようだ、もしこのがらくたの山の中に
「アリスタさんは
「当たり前じゃない。神々が宿した絶対的な力、是非手に入れたいものだわ」
「自分で使えない剣や盾だったら?」
「売り飛ばして一生夢を見るわ。お金さえあればそれが
また『夢』か。アリスタさんの夢とは何なのだろう、お金も名誉も手に入れた魔術師が掲げる夢とは。私のように『勇者になる』などという子供っぽいものではあるまい、でも聞いたところで正直に答えてくれるとも思えない、私は自分の役割に集中することにした。つまり探索と索敵だ。
常に左側の壁に沿ってゆっくりと歩を進める。前後左右のみならず床と天井、がらくたの山にも視線を送り、僅かな違和感も見逃すまいと気を張り詰める。
慣れない探索のため集中力が落ちてくるので何度も休憩を願い、二刻ほどが経った頃。私は右に折れる通路の手前で足を止めて同行者に掌を示し、壁際に
「右前方より何者かが接近中。足音からしておそらく人型、人数は二」
「へえ、いい子ね。アンタ自分が思ってるよりずっと優秀よ」
珍しく褒められたのは良いが、照れている余裕は無い。曲がり角から姿を現すのは
右の軍靴から
曲がり角の向こうから足音と暖色の光が近づいてくる。おそらく相手は
「ジェダさん!!」
「うおっ! なんだお前ら!」
完全に意表を突かれた様子のジェダさんとラドカスさん、彼らは最近別れたというアリスタさんの仲間。ちっ、という舌打ちの音が後ろから聞こえた。
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