勇者のかたち(八)
鐘を鳴らす教会も無い、立派な墓石も無い、ただ穴を掘って遺体を埋めるだけの簡素なお別れ。それさえも
(勇者様は強いんじゃなかったのか!? どうしてお父ちゃんを守ってくれなかったんだ!)
必死に涙を
「申し訳ありません、僕らの警戒が甘かったんです」
苦しそうな声を発したのはエクトール君。お腹の大きな奥さんも私達を責めるようなことはしなかった、ただ小さな子供の手を引いて目元を拭っていただけ。
大きな体のコムさんは大きな穴に入れられ、土を被せられた。心の整理をつけるための時間も儀式も無く、残された家族は追い立てられるようにその場を後にした。
責任を自覚する私達にも後悔する時間は与えられていない。今すぐにでも凶暴な
牛舎や馬房の開口部に板を打ち付け、老朽化した家を補強し、定期的に村を巡回して鐘を打ち鳴らす。こちらが警戒していると示すことで向こうも警戒してくれると良いのだけれど。
百戸に満たない小さな村とはいえ、放牧地を含む周囲を柵で全て囲うのは現実的ではない。初日と同じ罠を何度か試してみたものの、
「リナさん、来客だよ」
警戒している奴らをどう仕留めるか。エクトール君には腹案があるようだけれど、自分達の武力に頼ることになるから最終手段だと言っていた。私も
「リナさん? リナレスカさん、大丈夫かい?」
その声に顔を上げると、エクトール君が心配そうに覗き込んでいた。お婆さんが一人で住む家を補強していてつい考え込んでしまっていたのだ、それにここ数日は眠れずに疲れてもいた。
それにしてもロッドベリーではなく、こんな場所で来客とは誰だろう?私は無理に笑顔を作って立ち上がり、来客とやらに会いに行くことにした。
「勇者リナレスカさん、エクトールさん、
私達の前に笑顔で現れたのは、ロッドベリー市行政府から派遣されたという現地調査員だった。よく無事でここまで来られたものだと思う、後になって考えれば私達だって馬車ごと
それにしてもだ。詳しい状況を知らないとはいえ、この笑顔は村人の感情を逆撫でするのではないだろうか。そんな私の内心などに構わず、調査員さんは重ねて告げた。
「あなた達が派遣されてから十日目です。定期巡回のついでに安否確認も兼ねて参りましたが、そろそろ中間報告だけでも頂ければと思いまして」
「……わかりました」
微笑を貼りつけたままの調査員さんに私達が示したのは、小さな木箱に詰められた
「十、十一……十二匹討伐ですね。これで依頼完遂と認められます。お疲れ様でした」
「え? 完遂って?」
「本件の依頼書には『
「でも! 実際に来てみると二十匹以上いましたし、まだ半分は残っています。それに先日は人が襲われて亡くなったんです、このままではもっと被害が出てしまいます」
「そうですか。ここに残るのは構いませんが、これ以上の数を討伐しても報酬の増額はありませんよ?」
その返答に思わず口を開けてしまった。私達は報酬の事なんか聞いていない、人が亡くなったと言ったのに。
「僕達は村の被害のことを言っているんです。報酬の事など聞いていません」
あまりの事に言葉が出ない私の代わりにエクトール君が言ってくれた。調査員さんは初めて微笑を消して生意気な子供を
「それでは今日の夕方に決着をつけます。現地調査員を名乗るのであれば、ぜひともご覧ください」
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