勇者のかたち(七)
その夕刻、さっそく『奴ら』は現れた。森から飛び出した黒い影は七つ、八つと連なり、飛び跳ねるように一直線に村へと迫る。
「来たよ!」
「了解。
通りの中央に立って十分に彼らを引きつけた私は、事前の打ち合わせ通り壊れかけた小屋に飛び込んだ。扉を閉め
何かを叩きつけるような音とともに扉が揺れた、何度も何度も。続いて壁を搔きむしるような気配。察するに体当たりを繰り返し、入口を探しているのだろう。
そして『奴ら』は見つけた。裏側に開けてあった穴から侵入し、細長い筒状の通路を
「まず一匹!」
悲鳴を上げる間すらなく、左右から二本の小剣を突き込まれた
「二匹目!」
これが私達、というよりもエクトール君が考えた作戦だった。使われていない廃屋を借り受け、
だがこの作戦は早くも修正を余儀なくされた。仕留めきれなかった三匹目の
「こいつは私がやる! エクトール君は筒の中の奴を!」
「わかった!」
普通の兎よりも二回りほど大きい。憎しみを込めて噛み鳴らされる牙、私を睨みつける目は妖魔のそれのようだ。これほどの傷を負いながら恐怖よりも敵意を
「っ! 速い!」
余計な思考を巡らせたぶん反応が遅れたか、深手で動きが鈍っているはずと油断したか。高々と跳躍して首筋に迫る牙を身体を捻って
だが恐るべき獣の死力もそこまで。流血のために鈍った突進を左腕の
———この日私達が仕留めた
「いやあ、さすがはロッドベリーの勇者様。あんな方法で
大切にしていた乳牛の仇をとったコムさんは特に上機嫌で、
初めて見るこの白く濁った
そのような事があった翌日。村に一軒だけの宿屋に泊まっていた私達は、陽が上った頃に早くも叩き起こされた。
「起きてくれ! コムさんがやられた、すぐ来てくれ!」
その声に飛び起き、小剣を掴んだだけで扉を開ける。
「どこですか!? 容態は!?」
「それが……」
私達が現場に駆けつけた頃には、あらかた後片付けが終わっていた。どうやら牛舎の入口を破られて中の乳牛が襲われたらしいと教えてくれたのは、昨夜の酒宴で一緒だった農夫の方だ。
そして牛舎の様子を見に行ったというコムさんは……もう冷たくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます