勇者のかたち(四)
そろそろ日が傾き始めようかという時刻、エクトール君からもらった地図と寸分違わぬ場所に洞窟を見つけた。
『大樹海』とは違ってまっすぐに伸び、少し色付き始めたた木々。その隙間から陽光が差す明るい森の奥、岩肌にぽっかりと開いた黒い穴。
入口に
目測で約十六
軍靴から
「――――――!!!」
まるで断末魔のような絶叫を上げて転げ回る
まあそれはどの種族でも同じか、と思う。
その
一刻と要さず、私はポタ村に駆け戻った。本当はもっと風を切って気持ち良く走りたかったのだけれど、今は体力を温存すべき時だ。
「お待たせ、司令官。確認できた
「了解。では始めます、総員戦闘用意」
司令官役のエクトール君が九名の自警団員と十五名の支援要員に指示を下す。彼らは柵の内外で既に迎撃態勢を整えていた。
この村に来るまでほとんど実戦経験が無かったというエクトール君だが、それにしては司令官役が堂に入っていて
やがて森の奥から奇声が上がり、小さな影がいくつも飛び出してきた。緑色とも茶色ともつかぬ表皮、子供ほどの体躯。最下級の
「思ったより多いね!?」
「問題ない。投石用意」
ちらりと見たエクトール君の横顔が威厳と自信に溢れていて、心臓が大きく跳ねた。年下の少年のようなこの子が
「放て!」
司令官が掲げた右手が振り下ろされ、掌ほどの大きさの石が一斉に放たれる。
石に紛れて矢が放たれる。それは正確に妖魔の急所を射抜き、混乱の中で一体、また一体と大地に伏していく。自警団の中には猟師を
妖魔の群れは石に打たれて血を流し、矢を受けて数を減らし、それでも勢いに任せて
「槍兵隊、構え!」
土塁に身を隠していた自警団員が立ち上がり、手製の槍を突き出す。とうとう喊声が悲鳴に変わり、ここに至ってようやく
「追撃せよ!」
無慈悲な司令官の命令に槍兵が土塁を飛び出し、濠を飛び越え追いすがっては背中を突き通す。もともと身体能力で劣り多くが負傷していた
彼らの襲来に
エクトール君と私は久々にロッドベリー市に戻り、その足で行政府へ。ポタ村の
「では、お二人が直接討伐した妖魔の数は
そう。あれから私達は
別室にて私達に対応したのは、いつものやる気のなさそうな職員さん。溜息混じりに『討伐数
「上司の方を呼んでもらえますか?お話があります」
「妖魔の討伐数のみをもって功績とするのは正当な評価とは思えません。それでは妖魔が増えて、市民に被害が出てから討伐した方が良いということになってしまいます。できるだけ妖魔が増えないよう、増えてしまった妖魔に市民の力だけである程度対処できるよう、市として国として方策を巡らせるべきです。今回ポタ村でその実例を示しましたので、ぜひ一度ご視察ください」
ようやく報酬を受け取った私達は、安さが売りの食堂でささやかな酒宴を開いた。なにしろ今回の報酬はたったの十万ペタ、それも滞在費と資材の購入費で赤字という有様だったから。
「ごめーん。途中から私が行ったから余計にお金かかったんだよね」
「いえ、リナレスカさんのおかげで助かりました。お礼ができなくて申し訳ありません」
「ねえ。ちょっと聞いていいかな、きみが勇者になった理由」
気になっていたのだ。このどう見ても普通の男の子が勇者を目指した理由、というよりも勇者になれた理由が。
「軍人になれなかったからです」
短く答えて玉葱のスープを
彼は貧しい村の出身で、何人もの村人がお金を出し合って軍学校に入学した。しかし体力面でついていけず留年し、ついにはお金が足りなくなって退学してしまったのだという。村に戻るわけにもいかず夢も捨てきれない彼は知識と知恵を武器に功績を立て、つい先日ロッドベリー市の勇者として認定された……
「そっか、苦労したんだね」
私のありきたりな感想に、白い陶器のカップに両手を添えた彼は苦笑いで応えた。
勇者にもいろいろな形、いろいろな人、いろいろなやり方がある。この子はもしかすると、他の人が思いもよらない勇者の
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