第三章 凡才勇者、誰がために戦う
勇者のかたち(一)
親友であり優秀な補佐でもあったリージュが突然いなくなったのは寂しいけれど、いつまでも落ち込んではいられない。
日雇いの仕事が毎日必ず見つかるわけでもないし、せっかく勇者になったのだから世のため人のためのお仕事をしたい。だからこうして行政府が開く時間に合わせて危機管理課の窓口を訪ね、新たな依頼が来ていないか調べるのが日課になっている。のだけれど……
「おはようございます、リナレスカです! 新しい依頼は来ていませんか!?」
「ああ、どうも。来てませんよ」
「……」
「……」
たまに窓口にいるこの若い男の職員さんはちょっと苦手だ。愛想が悪いのを通り越して、いつも面倒くさそうな顔と面倒くさそうな声で対応するから。
「では依頼書を閲覧させてください」
「どうぞ」
行政府には日々、様々な勇者派遣要請が来る。付近に棲みついた妖魔の討伐依頼が最も多いが、他にも隊商の護衛、山賊の退治、遺跡の調査に同行など。これらを完遂すれば通常の俸給以外に報酬がもらえるし、実績によっては俸給が増額されたり依頼者から指名されることもあるという。
これらの報酬は依頼主である町村や団体が用意し、行政府が依頼の完遂を確認した後、行政府を通じて勇者に支払われる。当然ながら緊急性と危険性が高い案件は報酬額が高く、そうでない案件は低く設定されるが、その相場を下回る案件は長期間放置される傾向にある。
「あの……」
「何ですか?」
「この『ポタ村の
「まだ未解決ですね」
やはり面倒くさそうな声で短い返答。仕方ないので依頼書を読み進めると、村が断続的に
『二一八年二五〇日 受諾 エクトール・レーベル』
『二一八年二七七日 現地確認 進捗なし』
『二一八年二八九日 現地確認 防衛設備の設置を確認 受諾者に依頼内容を伝達』
『二一八年二九七日 受諾者を召喚、再度依頼内容を伝達』
文字情報を頭の中で整理するのが苦手な私が理解できたのは、エクトールという勇者がこの依頼を受けてから五十日が経過しても未だ解決していないということ。
「あの……」
「何ですか?」
「このエクトールさんという方は、最近勇者認定されたんですか?」
「そうです」
見覚えがない名前だと思ったら、やはりそうか。『大討伐』に参加したことと毎日こうして依頼書に目を通していたことで、今ではロッドベリー市が認定している勇者をだいたい把握しているのだ。
報酬も十万ペタと相場に比べて非常に安い。もしかするとこのエクトールさんは勇者になりたてで苦戦しているのかもしれない、だとすれば助けてあげなければ。先輩として! 先輩として!!
「あの……」
「何ですか?」
何度も窓口に訪れる私にあからさまに迷惑そうな態度だが、ここで
「この依頼、私も受諾していいですか?」
「構いませんが、報酬の受領は先に
「わかりました!」
受付の職員さんはやはり面倒くさそうに、備考欄に『二一八年三〇〇日 受諾 リナレスカ・エブリウス』と追記した。
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