大樹海の大討伐(一)
稲穂が
農作物の収穫を控えたこの季節、いよいよ『大討伐』が始まる。人と魔の境界であるロッドベリー砦を拠点として『ドゥーメーテイルの大樹海』に勇者の大軍を送り込み、妖魔をことごとく殲滅しようという作戦だ。
このたびイスマール侯国各地から集まった勇者は八十七名。侯国が認定した勇者十四名の中から十名、その他は私と同じように国内の市町村や有力者が独自に認定した者ということになる。
真新しい儀礼用の軍服を支給され、更衣室で濃紺色のそれに袖を通す。女性の勇者というのはやはり少ないらしく、ここで着替えているのは僅か五名。ものすごい肉体美だったり、鋼のように鍛え上げられた細身だったり、妙齢の魔術師風だったりするけれど、それぞれが
ロッドベリー砦には軍事施設以外にも様々な建造物があり、中でもこの催事場は二階建てのひときわ大きな建物。軽く百人以上を収容できる大広間や劇場に加えて大小五つの多目的室、広い厨房などが設けられている。私がなぜそれを知っているかといえば、雑用係として調理に給仕に掃除にと走り回っていたからだ。
その二階大広間にて今、壮行式の準備が進められている。赤い
「よう、凡才勇者。景気はどうよ?」
「ぷっ……あはは、あっははははは! 誰ですかそれ!」
後ろから懐かしい声がして振り返ったのだが、失礼ながらその顔を見た途端に笑い出してしまった。
八方に乱れていたはずの頭髪を綺麗に撫でつけ、
「てめえも同じようなもんじゃねえか。衣装に着られてんじゃねえ」
「お久しぶりです、
「こうじゃねえと参加させねえってリットリアがうるせえんだよ。せっかく
「お似合いですよ。ぷっふふふふ」
「馬鹿みてえな笑い方してんじゃねえ。似合わねえことくらい俺だってわかってんだよ」
軽くこめかみを小突かれた時、司会の方から着席するよう案内があった。席は決まっていないようなので
壮麗な音楽に合わせて国外からの勇者が入室してきた。白地に金色の飾りを施した軍服を着ているのはピエニ神聖王国、黒地に銀の刺繍をあしらった軍服は南方都市国家群、それ以外は他地域から。このように他国の勇者を歓待することには様々な意味があるらしい。
このイスマール侯国は広大な穀倉地帯を有する農業国であり、穀物を始めとした食料を輸出して侯国の財政を大いに
侯国としても他国の正規軍を領内に招く訳にはいかないが、民間人である『勇者』が少人数であれば防衛上の問題は薄い。周辺諸国としても自国の勇者の武を示すことで国威の発揚と発言権の強化を狙う……と様々な思惑が入り混じり、『大討伐』は年々その規模を増している。
……というのは全て、この場にいない勇者補佐リージュに教えてもらった知識だ。
「
慌てて周りを見渡したものだけれど、隣で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます