失われた村の夢喰い(三)
明るい店の中だ。熊、羊、犬、猫、僕は他のぬいぐるみ達と大きな
そんなある日、僕は小さな女の子に
「おかあさん! ねえ、おかあさん! わたし、このこほしい!」
「ごめんね、今はお金が無いの。また今度にしましょうね」
「うう……ピノ、ぜったいむかえにくるからね」
女の子は僕を抱き締めたまま泣き出したけれど、お母さんに言い聞かされて最後にはまた
なのに。女の子の温かさを胸に眠っていた僕を、突然引っ張り上げた奴がいる。ちょっと、いや結構乱暴に耳をつかんで籠から掴み上げ、そのまま外に連れ出したのは
「千八百ペタです。リボンをおつけしましょうか?」
「はい!」
暖かいランプの光だ。いや、ランプ自体は小さくて部屋は薄暗い。暖かいのはこの部屋だ、貧しいけれど幸せそうな四人家族がテーブルに乗せられたおいしそうなシチューを囲んでいるからだ。
「サヤ、お誕生日おめでとう!」
「あ! ピノ、ピノだ! やったぁ! おにいちゃんありがとう!」
赤いリボンを結ばれた僕は、僕をピノと名付けてくれたあの女の子に手渡された。僕を抱き締めたままくるくると回る女の子の腕の中はやっぱり柔らかくて温かくて、心から幸せな気持ちになった。この子を一生守るんだと誓った。
それからの僕は幸せだった。ご飯を食べるときも、お出かけのときも、寝るときもサヤと一緒だった。汚れてぼろぼろになった僕をお母さんは丁寧に
……その日、外に干されていた僕は、お母さんと近所のおばさんの立ち話を聞いていた。どうやら村で病気が流行っているらしい、そういえばお兄ちゃんが最近ずっと
……大きな穴だ。どうしてお兄ちゃんを埋めてしまうんだろう、かわいそうだな、起きてこれなくなっちゃうのに。お父さんもお母さんもずっと泣いていて、サヤはもっと泣いていて、その日はいつもより強く僕を抱き締めて眠った。
……やがてお父さんも穴に埋められてしまった。お母さんはずっと咳をしながらお料理を作ってくれていたけど、もうずっと起きてこない。僕はぬいぐるみだから大丈夫だけれど、サヤはおなかがすいただろう。早くあの温かいシチューを食べさせてあげなきゃ、誰か来ないかな、誰か早く!
……お前は誰だ!
……お前は誰だ! 見ているな? サヤと僕を見ているな? 僕の夢の中から見ているな!? 絶対に渡すものか、サヤは僕がずっと守るんだ!
「どうしたの!? しっかりして!」
「うう……ピノ、違うの。もうやめて、私は……」
おかしい。リージュの様子がおかしい。さっきまで夢の中で誰かと会話しているようだったのに、まるで悪夢に
「来る!」
「く、来るって何が!?」
「
白い
その光景、その姿、とても現実のものとは思えない。
そう、まるで夢の中に誘い込まれたような感覚だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます