叡知の杖(五)
古代遺跡の地下室、白銀色の杖を手にして口元を歪める男。事情を知らない私にも、その笑いは限りなく邪悪に見えた。
「ザックさん、その杖は何ですか? それよりミルカさんの遺体を埋葬しなきゃ……」
私の声にザックさんは振り返り、
「こんな奴など知ったことか。無能だの
……やっぱりリージュの言う通りだった、ザックさんの目的はミルカさんの安否確認や遺品回収などではなかったのだ。事前に「気をつけて」と言われていなければ混乱してどうすれば良いかわからなくなっていたことだろう。
「私達を
宣言した私だったが、後ろのリージュから無言の抗議の気配が伝わってくる。たぶん私の短慮を
なのにまた感情を優先してしまった。私達を騙したことにではなく、仲間の遺体を損なうような行為につい頭に血が上ってしまったのだ。
「好きにしろ、生きて帰れればな! 【
ザックさんの杖から続けざまに光の矢が放たれた。それは先程のリージュのものより強く鋭く輝き、
「我が内なる生命の精霊、来たりて不可視の盾となれ!【
だがおそらくリージュはこれを予測していたのだろう、私の前に展開された虹色に輝く半球体に次々と光の矢が弾け、
一本目で球体の表面に亀裂が走り、二本目でそれが網目状に広がり、三本目で砕け散った。四本目を
「夜を夢を影を、絶望を
床を叩いた銀色の杖から影が
「あの人、魔術師だったの!?」
「ううん、詠唱も動作も慣れていない。たぶん魔法が使えるのはあの杖の力だと思う」
今さらながらに小剣を引き抜いた私にリージュが答える、その私達を見るザックさんの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。
「リナちゃん、先に逃げて。この人は私が何とかするから」
「そんなの嘘! いくら私にだってわかるよ、自分だけ犠牲になるつもりでしょ」
「相談か? 俺は構わんぞ、何なら二人まとめて飼ってやってもいい」
……さて。
この人は剣術だけでもたぶん私より強い上に、優秀な魔術師であるリージュを圧倒するほどの魔法が使える。普通に戦えば勝ち目が無い、でもそれだけに油断が見て取れる。私達を未熟な若い女性と
師匠は「自分より
「私、逃げない。絶対あいつに勝つ」
「……わかった。じゃあ、おまじないをあげる」
大切な友達はそう言って短く詠唱、私の背中に軽く触れた。
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