叡知の杖(二)
依頼者はザックさんという剣士で、ミルカさんという勇者の仲間だったそうだ。行政府で名簿を確認してみると、確かにミルカさんの名前には二重線が引かれ、備考欄に「死亡」と記されていた。
その生々しさに息を呑む。勇者とはこういう仕事なのだと改めて認識する、私の名前にいつ二重線が引かれないとも限らないのだ。
ミルカさんが命を落としたというのはイスマール侯国北東部、レマ湖という大きな湖の中央にある小島。そこには古代の遺跡があり、地下への入口を見つけて中を探索していたところ、遺跡の守護者と思われる
「私が逃げ出したとき、ミルカはもう致命傷を受けていました。あれからもう十日以上が経ちます、生きているとは思えませんがせめて遺品だけでもと思い……」
馬車の中で肩を落とすザックさんに掛ける言葉もなく、目に涙がたまってきた。大切な仲間を失った悲しみはどれほどのものだろう、せめて遺品だけでも持ち帰りたいという気持ちもよくわかる。私だってもしリージュを失ってしまったら三日は泣いて暮らすことだろう。
……などと思い涙目で隣を見ると、リージュは意外にも平静な
レマ湖は直径約十
その漁村で買ったという古い手漕ぎ船が湖の
「そういえば男性を魅了するという
「ああ、俺にはこれがあるんだ」
そう言って見せてくれたのは、木で作られた薄い板状の
「島に近づくと
「うええええ……」
「……なんか聞こえる?」
「出たな、
静かに
「そこだ!」
軍靴に差してあった
距離は目測で約十八
「―――――!!!」
奇怪な叫びを上げてのたうち回る魚影。いや、これは魚影と呼ぶのだろうか? 先程まで美しい歌声を響かせていたそれは、美しくも恐ろしげな顔の半分を血に染めて牙を剥きだした。
よし命中! と拳を握ったのも束の間。湖面にいくつもの飛沫が上がり、大人の頭ほどもある影が次々と飛び出した。それらは明確に船上の私達に向かって飛び、銀色の背びれを輝かせて迫る。
「
短い注意はザックさん。声と同時に直剣を掲げて
「千年の雪、万年の氷、姿を変えし水の精霊、億の
粗末な木の棒から氷雪が烈風とともに噴き出し、辺り一面に吹き荒れた。水飛沫がそのまま氷の粒と化し、飛び出した
「さっすがぁ! やったね!」
「うん。守ってくれてありがとう」
そう。この子は知識があって思慮深いだけでなく魔法まで使えるのだ。頼りになる相棒に向けて右手を掲げると、優秀すぎる勇者補佐は控え目に掌を合わせてくれた。
「きみは魔法が使えるのか。すごいな、名前は何といったかな」
「……リージュ、です」
逃してしまった
【
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