勇者リナレスカ・エブリウス(三)
石ころだらけの山道を駆け下り、足元に夏草をちぎり飛ばして草原を駆け抜け、守備隊と交戦中の
敵軍は推定百匹弱、
「遅い!」
その緑色の首筋に刃を当て軽く滑らせる。いちいち振り返ることはせず次の妖魔の横腹を裂く。敵中を縫うように駆け抜け、時折り小剣を振るう。たいした手応えは無いが今はそれでいい。私の任務は敵を倒すことじゃない、大事な
「
一息に
格好をつけたわけじゃない、いやそれもちょっとあるけれど、私なりに効果を計算してのことだ。
戦いには
「
数瞬の空白、次いで噴き上がる歓声。兵士が槍を突き上げ、農民が拳を握り、母親が子供を抱き締め歓喜の涙を流す。
「聞いたか!
「
ラムザ小隊長の号令に村じゅうが唱和。この瞬間、戦況は一変した。
さらには突然の逆襲に
「よくやってくれた、
「礼はいい、それより例の件はどうだ?」
「よかろう、手配しておく」
「リナレスカ、前へ!」
「はい? ……はい!」
何だかんだ言ってこの人はすごいんだなぁ。と間抜け顔で口を半開きにする私を、リットリア副司令が呼びつけた。一瞬それとわからず気の抜けた返事をしてしまい、慌てて言い直す。
「貴君の働きに感謝する。貴君さえ良ければロッドベリー市において勇者と認定するよう推薦するが、どうか?」
「はい? ……はい!? 私が、勇者に!? どうして!?」
「二年間の勇者補佐としての実績、クルケ村での特筆すべき活躍がその理由だ」
「活躍? 私が?」
「戦機を心得、
「い、いえ! ありがとうございます!」
幼かったあの日から勇者様に憧れ、ずっと夢見ていた私だ。もちろん嬉しい、嬉しいけれど、突然の申し出と副司令の威圧感に混乱するばかり。私はもう砦の兵士でも
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