勇者リナレスカ・エブリウス(二)
私達がこのロッドベリー砦に戻って来たのは、もちろん懐かしさのためではない。二年前に
魔の領域とされる『ドゥーメーテイルの大樹海』との境には要所を塞ぐ形でいくつかの砦が築かれているが、山と森と川が入り組む複雑な地形だけに、少数の妖魔の侵入を完全に防ぐことはできない。今回も数十匹程度の妖魔が境界を越えて侵入したようだが、その後の動向を掴めずにいるという。
これに対して防衛の中心的な役割を果たすロッドベリー砦は各町村の規模に応じた兵を駐屯させ、土嚢袋を積み上げた障壁や柵を作って妖魔の襲撃に備えている。
もちろんこれは後方の町村にとって恐るべき
「おう、こっちに
そんな状況下にあってもやっぱり『
そしてそれはすぐにやって来た。左右に副官と秘書を従え、軍靴を鳴らしてリットリア副司令が姿を現したのだ。
その威圧感、硬質の美貌、この場の誰もが知る卓絶した実績。威に打たれた兵たちは姿勢を正し、もう軍属ではないはずの私も思わず直立して敬礼したほどだ。
「クルケ村に駐屯中のラムザ小隊から援軍要請だ。百匹程度の妖魔を撃退したものの被害甚大、至急増援を求むとの事。敵は
「金とこっちの兵力は?」
「規定の報酬に加え、状況に応じた報奨金を約束しよう。防衛部隊は付近からかき集めても五十に届くまい。何人欲しい?」
「足の速ぇ奴を十人」
「わかった。よろしく頼む」
こうして手短に打ち合わせと人選を済ませ、準備もそこそこに即刻出撃。
ただ前回と違って、「
小走りに一昼夜を駆け通した
数度の休憩を挟んだだけで一気に五十
「火は焚くなよ、水と携帯食で腹を満たせ」
「うええええ……」
変な声を出して
「リナ、よくここまでついて来たな。疲れたろ」
「そりゃあ疲れましたよ! うら若き乙女を何だと思ってるんですかね、あの人は」
「前から足は速かったよな。さすが元
「だからって普通、五十
幸いなことに、
「あ、あの……」
「まだだ」
私だけでなく小隊の皆がもどかしそうな顔をしている。それで説明不足を悟ったのか、隊長は面倒くさそうに口を開いた。
「守備隊の隊長はラムザだ。簡単にやられるタマじゃねえ」
よく見ればその言葉の通り守備隊は木柵と防壁を巧みに使い、投石や連絡、物資の運搬などに村人の協力を得て
「おい、
「はい!」
つい反射的に返事をしてしまい、すぐに後悔した。これで私の役割は決まってしまったのだ。
「奴らに伝令だ。『―――』ってな」
「復唱します! 『―――』!!」
「よし行け!」
茂みを飛び出し、足元に小石を跳ね上げ、
規則的に息を吸い込み、吐き出し、軽く広げた掌を前後に振り、爪先で大地を蹴りつけ体を跳ね上げる。亜麻色のセミロングが風に流れ、その先から汗が散る。
一刻を争う状況、私の足に人の命が懸かっているというのに不謹慎だとは思う。思うけれど、やっぱり、やっぱり私、この足で走るのが大好きだ!
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