アイサ村の模倣魔人(一)
ロッドベリー砦を
このアイサという田舎村に着いたのは四日前だというのに、この人は有力者と談笑したり村人と世間話をしたり、夜は酒場に入り浸るばかりで何もしていない。ついでに言えば訓練もしていないし、私に剣術を教えてくれるわけでもない。本当にびっくりするほど何もしていないのだ。
「あの! この村には何をしに来たんですか!?」
「そのうちわかる」
「いつもそうやってごまかして! ここに来る前から三十日も遊び歩いてばかりじゃないですか!」
「うるせえな、黙ってろ」
「暇ならせめて剣術くらい教えてください!」
「甘ったれてんじゃねえ。生き残りたけりゃ自分で考えろ」
灰色の頭髪、三十路過ぎという年齢にしては多い若白髪、
そしてこの日、私達は完全武装で村はずれの
まだ午前の早い時間、村人が朝食を作っている頃だ。いつもなら夜中まで飲み歩いて昼過ぎまで起きないくせに、今日に限って何を企んでいるのだろうか。
そんな私の頭の中など一切お構いなしに、
「邪魔するぜ。
中にいた若者はさすがに驚いた様子で、でも
「いいですよ。何もありませんが」
「そうかい」
言うが早いか剣光一閃。抜き打ちに若者を斬りつけ、返す一刀で首を
「な、な、何してるんですか! ひ、ひと、ひと……」
「人かよ? これが」
剣で差し示した先には若者の死体、だが一滴の血も流れていない。それどころか床に転がった頭は真っ白で目鼻も口も無い、それがあるべき場所には三つの空洞があるだけ。
「
元々の体は青白い軟質で、目鼻があるべき場所には小さな空洞。知性や体力は
「お前よ。俺がこの三十日間、遊び歩いてるとでも思ったか?」
「……」
ごめんなさい、思ってました。だがこの人は遊び歩いているふりをしながら何気ない世間話や酒場の会話から情報の欠片をかき集め、この村に
「次だ」
「ま、待ってください! もし間違ってたら……」
「お前、少しは自分の頭で考えろよ。朝っぱらからいきなり入ってきて、泊めてくれって奴を泊める人間がいるか?」
「い、いいえ……」
「
「……ありません」
「よし、じゃあ次だ」
それから同じように三体の
気味が悪そうに遠巻きに見守る村人達、うら若き乙女に何てことをさせるんだと文句を言う私。それらを一切気に留めることなく、無造作に歩きだす三十路男。
「行くぞ」
「ど、どこへですか!?」
「
「うええええっ!?」
相変わらず何の説明もなく、ぶっきらぼうな師匠はそれだけを告げた。
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